丘の上、ただひとつの家(全公演終了・ご来場ありがとうございました) 公演情報 鵺的(ぬえてき)「丘の上、ただひとつの家(全公演終了・ご来場ありがとうございました)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    なのにエンタメ
    奔放な母親の行動に振り回され続ける家族の思いがぶつかり合う
    重苦しい展開なのに、どこか天井の穴から青空が見えるような
    一筋の楽観主義が救いとなっている。
    ひとつにはぶっ飛んだ母親のキャラによるところが大きいと思う。
    このとんでもない母親が子どもたちに伝えることが出来るのは、
    ただひとつ“赦す”ことである。
    自分も人も、全て赦せば幸せになれるという、自己中心的で
    究極の幸福論のままに生きる母親と
    彼女を取り巻く登場人物のキャラがくっきりしていて説得力があった。
    クールな弁護士の言動が爽快感を呼び、全体のバランスを上手くとっている。
    「荒野1/7」に続く家族の物語は、緊張感の途切れない、
    それいて思わず吹き出すような“抜け”もある台詞が素晴らしく、
    泥沼家族をエンタメにする手腕が秀逸。



    ネタバレBOX

    三方から囲んだ舞台には歪な椅子が4脚置かれている。
    いずれも4本の脚のうち1本は、別の椅子から取ってつけたように色や形が違う。
    背もたれは低い位置で切り取られ、その切り口は赤い。
    もたれることもくつろぐことも拒否された、登場人物たちの家を思わせる不自然さだ。

    自分が幼い頃家を出た母親に、父が遺した指輪を渡したいので探して欲しいと
    ひとりの女性が弁護士に依頼する。
    子どもを置いて出て行った母親を探す必要などどこにある、と強く反対する夫、
    最初は反対していたが、やがて本当は自分も会いたいと語る妹。
    いつもは天然でおっとりした姉が、この件に関してはなぜか頑固で譲らない。
    やがて依頼を受けた弁護士により、いくつかの事実が明らかになる。
    家を出た母親は、刑務所に入ったことがある、万引きしたことがある、
    そして家を出たあと子供を2人もうけていて、もうひとつの家族が存在する…等々。
    2つの家族は、ひとりの母親を挟んで大揺れに揺れたのち
    弁護士同席のもと、ついに母親も含めて集まることになる…。

    母親は出て行ったが、父に守られてきた育ちの良い姉妹と
    誰にも守られず、母親や社会に対して攻撃的な姉弟、
    血のつながりはあっても対照的な2つの家族の違いが鮮やか。
    家を出た後、実の兄の子を2人も産んだ母親も業が深いが、
    自分の出自を知った姉が、自分も実の弟との子を産んで見せつけるという
    母親への壮絶な復讐心に思わずたじろぐ。

    最初声だけが聞こえてから姿を見せる、母親の登場シーンが超インパクト大。
    若い男と人目もはばからずイチャイチャしながら再会の場へ出てきた母親は
    ミニスカートにブーツで、唇も爪も真っ赤に塗っている。
    この母親が、子どもに詫びを入れてさめざめと泣く…みたいな展開が一切なくて
    「なーんか、みんな怖い顔してるぅ~」と男の背中に隠れるようなキャラなのが潔い。
    開き直りにも見えるが、自分のしたことを後悔していない、つまり
    自分の行動も、最初の家族、次の家族、ちゃらちゃらした若い男も
    ぜ~んぶ肯定して大好きなのだ。
    暗く重苦しい話の中に薄明るい光源があるとしたら
    それはこの“ノー天気な菩薩”みたいなトンデモナイ母親の存在である。
    結局菩薩に丸ごと肯定されることで、子どもたちは次の一歩を踏み出そうとする。
    母親のかたちといってもいろいろあるのだ、と思わせられる。

    もうひとつストーリーを面白くしてくれるのが“価値観のズレ”である。
    母の愛人であるちゃら男の「みんな一緒に住めばいいじゃん!」的な発言には笑った。
    ほかの人々がそれぞれ硬直した価値観にとらわれている中
    母と若い男は、「まあ、それもいいじゃん」となんでも受け容れていく。
    人を幸福にするのは、この“いい加減さ”かもしれない。

    ちゃら男役の井上幸太郎さん、弁護士を襲ったりする一方で憎めないところもある
    硬軟使い分ける男の二面性を自然に見せて素晴らしい。
    ぶっ飛んだ菩薩のような母親を演じた安元遊香さん、
    善悪を超えた度量の大きさを感じさせる。
    母への復讐に燃える姉を演じた宍戸香菜恵さん、
    緊張感の途切れないこわばった表情と台詞が、
    終盤力の抜けた表情に変わるところが巧い。
    ちゃら男を一喝、逆に利用するクールな弁護士役の生見司織さん、
    硬質な台詞で魅力的なダークヒロイン(?)像を創った。

    弁護士までがクライアントと共通の体験をしていなくても
    良かったのではないかという気がする。
    人に寄り添うのに必要なのは、体験より想像力だと思うから。


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    2015/02/16 23:34

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