月がとってもきれいです 公演情報 はらぺこペンギン!「月がとってもきれいです」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    全ての人が人生で1度は考えなければならないテーマかと
    夏目漱石のちょっと奥ゆかしいようなタイトルと、
    あらすじからアットホーム的かつちょっと重いネタも含まれる、
    そんな物語を想像していました。

    しかし描き方は明るめながらも、
    その重厚というかするどすぎる切り口のこの「テーマ」について、
    1人の人間として観劇しつつ打ちのめされてしまいました。

    一生に一度出会うべき演劇なのかも知れません。

    ※ネタはネタバレの方に

    ネタバレBOX

    「殺人」

    被害者家族に対しての苦しみは今までにも色々なジャンルで
    数多く取り上げられてきましたが、
    いざ「加害者」家族になってしまった時、

    自分ではない血のつながった者の犯したその罪に
    どこまで人は向きあえば許されるのでしょうか・・・


    物語をだんだんと理解していくと

    ・ ある少女の殺人事件加害者(少年院受刑者)

    ・ その被害者家族
      (今まで誰にもこの話はしてこなかったという居酒屋チェーン店主兄妹)

    ・ (別の大人の殺人事件の)加害者家族(兄妹)
      (こちらは事件の事がバレるたびに転職、引っ越しを繰り返し逃げてきた)

    ・ この兄妹の次男に当たる、工場で働く元「加害者」

    が、思ったよりも近い存在として物語中、描かれていました。


    最初、殺人事件加害者が少女を追いつめ凶行に及ぶさまが
    言葉で描かれる場面にかなり嫌悪感を覚えました。

    そこから他の登場人物の素性が明かされるまでが長かったので
    しばらく各人物間の紐付けは分からなかったのですが、


    (あくまでも)「自分ルール」では

    ・ 弱者に対する暴力、性的暴行その他絶対に許す事の出来ない犯罪は
      加害者には極刑

    ・ 犯行に至る動機に理解を示す事が出来るもの(被害者側に問題のあるもの)は
      情状酌量の余地あり

    と考えて生きてきました。

    ※ 多分他の観劇者も自分なりの「ルール」に
      照らし合わせて本劇を観劇していたのではないかと思います。


    序盤の情報では、2つの事件それぞれ「許せる」余地のないもので
    加害者自身は少年法を変えてでも「死刑」で当然、
    弁護士女性のいう死刑廃止論など単なるキレイ事、としか思えませんでした。


    (1)しかし「加害者家族はどうなるのか?」と言われると
      ・ 加害者が加害者になる所以を作ったのだから許せない

      ・ あくまでも加害者本人と別個の人間であり、
        別の人として考えなければならない

      ・・・自分の中でも答えは出ませんでした。
      (分かりやすい、加害者の性格をねじ曲げる原因となったとされる
      母親、父親などはともかく、その人格形成になんら関わりを
      持っていなかったと思われる兄弟姉妹までは・・・)


    (2)つつましく生きる元加害者男性
      物語の中では、今の人生になんら楽しみを持たず、
      ただ仕事をして、被害者の一家に仕送り?を続ける青年。

      お芝居/演技としてもそうでしたが、この青年のありように
      残虐性その他は感じられず、
      「本当に彼が事件の加害者なのか?」と問わずにはいられませんでした。

      事件の被害者を知る遺族、その関係者はともかく
      「今」だけを見れば「彼」ほど人生をつつましやかに
      生きている人間はいないように感じられました。
      (それは自分が重い十字架を背負い、
      またその家族にも背負わせてしまった事を十分に理解しているものの
      行動に思えました。)


    そういった意味で「殺人」の被害者家族、加害者家族、の
    ありようとその顛末までは本当に重い「テーマ」が描かれていました。

    今までこれほど重く「殺人」を扱ったお芝居を観た事がなかった事もあり、
    「感動」とは別の意味で「自分の中に得るものはあった」と思いました。


    人生で「答えのでない事」として
    ・ 宇宙の果てのその外側はどうなっているか?

    ・ 死んだら意識はどうなるのか?

    というものがありましたが、

    ・ 「殺人」の定義で許される殺人と許されない殺人は
      法の元で規定されるのか?

    というのもあるのだな、と思いました。


    居酒屋で働く加害者兄と結婚の決まった加害者妹、
    そして自分の婚約者が「殺人事件加害者」の家族である事を知ってしまった婚約者と
    居酒屋店主達、
    ここまでで十分「加害者」の家族には辛すぎる人生が待っているのだな、
    という意味で

    「このあたりで終わりなのかな?」

    と思っていたのですが、

    ・ 同級生女子の父親を殺害した青年には理由があった

    というのを示されてしまって、
    これにははっきりいって「蛇足」感を感じてしまいました。

    それまで「加害者」「被害者」としてはっきり線を引いてきた役者達が
    ここで大きくバランスを崩されてしまう、と思いました。

    ※ まあ、これは「感動物語」としては
      許されない事件があったとはいえ
      最後の最後に
      兄弟妹が再び再会する、という
      「もし許されるならば」という物語だったのかと思いますが・・・

      自分はこの「許し」がない方が本テーマがより際立つものと思えました。

    自分の胸に響いたのは、女性弁護士が被害者妹に対して、
    少女殺人加害者の事を
    「許さないで下さい」「一生、許さないで見届けてください」
    と言っていた事です。

    死刑廃止=許されてしまう、と自分も捉えていましたが、
    死刑ではなく社会に戻れたとしても、一生「お前を見張っているぞ!」と
    いう目で観ている事は、もしかしたら単に「死刑を与える」事よりも
    重要で、そして「犯罪者・加害者」にとっても苦痛であり、
    償いなのかも知れません。

    ※ まあ、自分は人を殺したいほど憎んだ事はありますが
      その行為に及ぶほどの勇気も狂気も絶望もなく、
      生きてきた人間なので、「何が一番犯罪者・加害者にとっての罪/償いとなるか」
      は想像も出来ませんが・・・

    あと、殺人事件加害者だと知ってなお工場へ入れてくれた工場長や
    「自分の子供が殺されたらどうするの!」と怒る嫁、
    元同級生の弟が事件を起こした事を語る知人、
    「そういう噂が立ったら困るから」とクビにした居酒屋店長や
    殺人犯の家族でも「付き合って下さい」という妹、
    そして最後吹奏楽演奏に参加させてくれた女性など、
    それぞれの場面/立場で自分だったら、と考えると
    やっぱり、良くも悪くも同じ行動を取るんだろうなあ・・・と思えました。


    物語の「テーマ」自体がかなり考えさせられるものだった為、
    観劇していたこちらも結構ダラダラと感想を書いてしまいました。

    はらぺこペンギン!さんはこういう「局所的」テーマに絞って演じる劇団なのですかね、
    あるいはタイトルのようなアットホーム展開もあるのでしょうか?
    「局所的」内容でも観てみたいですし、
    アットホームな内容ももう少し観てみたいと思いました。


    PS.ちなみに何かで読んだんですが「月が綺麗ですね」は
      実際夏目漱石が言ったかどうかかなり怪しいそうです。
      日本人の奥ゆかしさを表したいい言葉だと思うのですが

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    2014/11/26 23:56

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