仮想したい顔 公演情報 村田堂本舗「仮想したい顔」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度

    凍りついた世界
    こういう舞台を前にして、僕は、何を思えばいいのだろう。こんな風に完結した世界にあって、僕ら観客は、必要だったのか。なんとなく、無力感にとらわれて、途中から、逃げ出したくなった。

    ネタバレBOX

    大阪芸大出身の劇団「村田堂本舗」。4年間で公演8回。今回が9回目、初の東京公演。随分、長くやっているし、場数も踏んでいる劇団なのである。してみれば、「長くやる」ということは、前進するということと、必ずしも結びつかないどころか、歩みを止めるということにもつながるのかもしれない。

    とにかく、不思議な舞台である。本人たちは大真面目にいい話のつもりでやっているのじゃないかと思うけど、どことなくヘンな日本語や演出効果のおかげで、結果、無駄にシュールな仕上がりになっているのだ。狙いなのか?

    例えば、小道具の時計が進むとき、普通は暗転の間にこっそり進めたりするのだろうけど、この劇団の場合、暗転するけど、なぜか時計にスポットが当たる。そして、手動とおぼしきぎこちなさで、針が、するすると進んだりする。なぜ、それを観せるのだろう。謎は多い。他にも、登場人物にスポットが当たって、観客に向かって、その場面における自分の心理を説明したり、舞台の進行状況を、小道具の移動ひとつに至るまで、逐一教えてくれる親切さが、非常にシュール。

    こういう感覚、どこかで覚えたな、と思ったら、夏の夜の夢の、ボトムたちの芝居だった。ライオンが人だと分かるように、壁が壁だとわかるように、ボトムたちは、ライオンには「私は本当は人です」と、壁には「私は壁です」と語らせる。村田堂本舗の舞台は、あの喜劇的なシュールさに満ちているのだ。ひとりがテンパっていることを示すために、突然全員が舞台に出てきてよくわからないダンスを踊りながら、なぜか折り鶴をばらまくシーンに至っては、ボトムたちを超えた、とさえ言える。

    でも、そんな彼らは、舞台に対して、非常に真摯にとりくんでいるのである。だからこその、あの演出なのだ、きっと。舞台の後で、出口に並んで見送りまでしてくれたし、プログラムがカラーの力作だったり、公演を楽しんでいるのは、痛いほど伝わってくる。

    だが、どうやら、公演を行うことが楽しくて、自分たちの舞台を客観的に観ることは避けられてきたようだ。演技、演出、作劇、あらゆる面にわたって、ヘンなクセが、そのまま、場数を踏むごとに、強化されていったのだろうと思う。そして、この独特の世界は、そのまま時間を止めていて、彼らが大学を卒業した今も、劇団ごと、自己完結している。観客が必要ないほどに。

    今回の物語は、支離滅裂なところがあって、よくわからないけど、たぶん、ニートの青年が、出会いを通じて、実家の外へ出るはなしだった。作者にも、どこか、自覚があるのかもしれない。学生のまま完結し、凍り付いた、彼らの舞台の世界は、東京へ出て新たな出会いを経験することで、溶けることがあるのだろうか。希望は、ただひとり、エネルギーに満ちた柔軟性を感じさせてくれた、今井志織さんに、あるかもしれない。おおきなお世話だろうけど。

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    2008/08/22 04:28

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