満足度★★★★
アイデンティティー
シンプルな設えの中での90分弱の4人芝居というコンパクトな作りで、趣向を凝らした脚本と演出によるブラックユーモアが楽しく怖かったです。
醜い顔の為に自身が開発した製品のプレゼンに立たせて貰えない男が、手術によって美しい顔になってポジティヴそして傲慢になって行くものの、同じ手術を受けて同じ顔になった人達が街に現れ始めて自己の存在について確信が持てなくなる物語で、美醜の価値やアイデンティティーについて考えさせられる内容でした。
エロティックな表現や下ネタが観客の気を引く為の表層的なものではなく、テーマに上手く絡めてあるのも洒落ていました。
出演者は常に舞台上にいて、主人公以外の3人の役者は何役かを瞬時に切り替えながら進行するのですが、それが手法的な面白さだけでなく、アイデンティティーについて問い掛ける作品の内容にも対応しているのが良かったです。
ライブカメラを使った映像がシンプルながら効果的で、手術シーンの独創的な手法や、終盤の自己が無限後退するイメージが印象的でした。
小道具で使われていた果物が顔のパーツを想起させるだけでなく、ドイツ語では頭と関連がある(何か象徴的な意味が掛けてあるのか気になってアフタートークで質問したところ、そういう返答でした)のが、興味深かったのですが、作中ではそれが分からないのが勿体なく思いました。
グラフィカルなファブリックを用いた衣装がファッショナブルで素敵でした。