星の結び目 公演情報 青☆組「星の結び目」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    氷星
    冒頭の10分間で一族の栄枯盛衰を見せてしまう渋谷はるかさんが素晴らしい。
    この人の持つ品の良さと、背負っているものを感じさせる深い台詞が
    吉田小夏作品との相性も良く、その世界観を余すところなく表現している。
    叔母・姪の二代に渡って女中として仕えた梅子を演じた福寿奈央さんが
    時代を行きつ戻りつしながら「~ございます」調で語る構成もメリハリがあって良い。
    登場人物一人ひとりのドラマが魅力的なのは役者の力量もあると思う。
    吉永家を吹き抜ける風のような、あっという間の2時間15分。

    ネタバレBOX

    吉祥寺シアターの広い舞台は、高さを抑えた階段で屋敷の広がりを創り出している。

    冒頭、かつて吉永家の女中だった梅子(福寿奈央)が、戦後開いた和菓子屋を
    すっかり落ちぶれて地味ななりをした吉永静子(渋谷はるか)が訪れる。
    羽振りの良かった時代の面影もない静子が登場すると
    その仕草や言葉から過ぎ去った30年余りが色濃く立ちのぼるようで誠に素晴らしい。
    梅子の懐妊を素直に祝う静子自身の、喪ったものの大きさを思うと
    物語はまだ始まっていないのに、切なさに涙がこぼれる。

    この後梅子が、大正・昭和に渡る吉永家の出来事を生き生きと語り始める…。

    事業に成功して一代で財を成した初代吉永甚五郎と、
    その“直感と閃きで物事を決断する”気質を受け継いだ次男信雄の二役を演じた
    荒井志郎さん、共通項の多い親子ながら微妙な違いを丁寧に見せてとても良かった。

    不器用で横柄で、静子の支えなしには店をやって行けない二代目甚五郎役の
    多根周作さん、人より遅い成長を遂げる男を温かく演じていて巧い。

    先代から吉永家に仕える小池桂吉を演じた藤川修二さん、
    勤勉な仕事ぶりや、障がいのある娘に対するまなざしに加えて、
    血の通った台詞がいかにもあの時代の奉公人を彷彿とさせて秀逸。

    この作品で圧倒的な存在感を示す渋谷はるかさん、
    時代の空気をまとった凛とした台詞、丁寧な語尾、隙のない仕草など
    作者の世界観を見事に具現化していると思う。
    店の番頭、榎本三郎(西村壮悟)が出征する時、何かを言いかけた
    一瞬の躊躇と諦めが、彼女の人生で唯一“やり残した”ことだろうか。

    劇中唄われる「花嫁人形」と「星の流れに」が効果的。
    照明の繊細さと間が、余韻を残して素晴らしい。

    かき氷に砂糖をかけるという繊細な食べ物や
    亡き人の残した手紙、移ろいゆく季節の花など
    儚く消えて行くものたちに対する悲痛なまでの愛着が感じられる。
    全てはもう存在しない。
    存在しないが忘れることができない。
    吉田小夏作品には、“なかった事になどできない”という思いが満ちている。
    それを共有したくて、また劇場へ足を運ぶのである。

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    2014/07/06 00:00

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