満足度★★★★
新国立劇場で,『テンペスト』を観た。
新国立劇場で,『テンペスト』を観た。今回は,事前に,白水社ブックスの説明をひとおとり読んでいった。この作品は,シェークスピアにとっては,最後の戯曲となる。1611年ころに書かれたと思われる。シェークスピアは,本作品後,さらに共作で『ヘンリー八世』。1609年には,バミューダ島付近で座礁して,乗員が島に全員上陸したという事件が。
人間の作った社会的制約を廃止して,すべてを大自然に委ねることは可能か。進み過ぎた文明によって地球は汚れていく。だから,未開の人たちの生き方にも良いものはある。人間たちの裏切りによって,はからずも暮らしているプロスペローにとっては,島は心安らぐ場所でもあった。やがて,空気の妖精エアリエルと決別し島を去っていく。
精霊と人間が混じりあう,独特の美しい世界は,『真夏の夜の夢』と似ている。変化に富んだ演劇であるが,初めて見るとなじめない面もある。上演史的には,嵐の場面は何度も改作されていく。1673年には,オペラ化される。見た目の美しさを優先し,原作の一部がカットされることも。丸太一本と海草だけの演出もあった。
1963年の,ピーター・ブルックなどの議論もあった。プロスペローが地面からせりあがる。真っ赤な太陽が変化していく。精霊が原始的な仮面をつける。などの演出があった。で,最後には,疲れ果てて,プロスペローは,ミラノに戻っていく。
空気のように軽やかなエアリエル,汚い魔女の子キャリバンの存在が印象的だった。理性で考えるとありえない世界。しかしながら,詩的想像力を働かせると,美しくしあがっていく。さまざまな対比の登場人物の調和もあって,ロマンチックな戯曲だと,コールリッジは絶賛した。人生にも戯作にも飽きたシェークスピアの姿がそこにあったのだろうか。