エレクトリックおばあちゃん 公演情報 渡辺源四郎商店「エレクトリックおばあちゃん」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    笑ったら泣け
    社会問題を扱ってこんなに笑わせるのはなべげんくらいだろうと思う。
    舞台を二層に分けて二つの世界を並走させる構成と演出が素晴らしい。
    笑った分だけ結末の衝撃が大きい作品。
    その中心にいるのはちっちゃなおばあちゃんを演じる三上春佳である。
    ほとんど“作ってる感”ゼロ、まるで素のように座っているのに
    完璧な“間”と柔らかな津軽弁で、現代日本の高齢者のありようを抽出して見せる。
    終演後台本を買って、下北沢から電車に乗っても私は涙が止まらなかった。
    変なおばさんと笑わば笑え、私は今日なべげんを観たのだ。

    ネタバレBOX

    上手と下手には待機する役者が座る椅子が6脚ずつ椅子が置かれている。
    舞台中央に一段高い四角い箱があり、ちゃぶ台のあるおばあちゃんの居間になっている。

    地震により青森県の南むつエネルギー・センターで事故が発生、青森全域が停電する。
    混乱する町立病院の医師、看護師たち。
    居間では80代後半のきい(三上春佳)が突然電気人間と化し、発電できるようになる。
    最初は100Wの電球が点くだけだったが、次第に発電量が増え
    やがて南むつ町全体、そして青森県全域の電力を“安定供給”するようになる。
    一方病院では、混乱が広がり避難命令を受けて患者とスタッフがバスで避難を始めるが
    ただ一人、移動は反って危険と言う理由で病院に取り残されようとしている患者がいた。
    最後まで連れて行こうと主張する看護師もついには折れて、バスは出発する・・・。

    次第に電気のコードが増えて行くきいの周囲には、様々な人が訪れる。
    孫(夏井澪菜)、嫁(工藤由佳子)、電気屋の社長(北魚昭次郎)、社員(工藤良平)。
    一方病院ではスタッフがボケた患者の孫や母親、ボーイフレンドという役割を演じていた。
    その患者も今やたくさんのチューブに繋がれた状態となり、
    全員が避難する中、ひとり病院に置き去りにされようとしている。

    舞台一階部分、病院の混乱が地震・深刻な事故発生という現実世界で、
    二階部分で繰り広げられるのはきいの記憶・妄想・願望の世界ということだろうか。
    並走する二つの世界がやがてひとつに繋がるまでのテンポと伏線が素晴らしい。
    母親のエピソードや嫁との確執、子どもに戻ったりまた老婆になったりという
    きいの時空の移動が全く無理なくなめらかに行われる。
    電気のコードが増えて行くのが、実は病院のチューブという比喩が秀逸。
    力まず軽く、だが味わい深いきいの台詞が素晴らしく、
    若い三上春佳さんの力量に驚嘆する。
    嫁役の工藤由佳子さんが、“東京もん”らしい都会的な雰囲気と
    確執のある“嫁の毒気”をたっぷり含んでいて巧い。

    1970年発売のザ・スパイダースの歌「エレクトリックおばあちゃん」を
    全員で歌い踊るパフォーマンスは明るく屈託が無い。
    だがラスト、きいの「ここで死ぬんだもん」という台詞には痛切な選択があって
    “死に場所を選びたいなら、孤独がもれなくついてくる”という
    私たちにはまだ見ぬ不安と怖れに心臓を思いきり掴まれる思いがする。
    爆発音が響く中、私はひとり取り残されることを選べるだろうか…。

    ひとつだけ、「エレキ幸福の会」のくだりは必要性がイマイチ良く解らなかった。
    非常時にあっては宗教観も変わるのが日本人かもしれないけれど。
    私の好きな斎藤千恵子さんが伝道師としてはじけてるのを観るのは楽しかった。

    新しい本拠地を求めて奔走中と言う渡辺源四郎商店、
    ぜひ良き所を得て、私のようにぼんやりしてる人間を
    がつんと目覚めさせてくれるような作品をこれからも創ってください。
    畑澤先生、ありがとうございました。

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    2014/05/04 18:28

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