案山子 公演情報 トム・プロジェクト「案山子」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    嘘と生活者へのアンビヴァレンス(追記あり)
    東憲司氏の作品には、時代状況への問いかけが常にあるため、
    そのような部分で期待が裏切られることはない。
    必ず何かしら受け取ることができる。

    だが、今作は芝居自体としては惹き込まれなかった。

    ネタバレBOX

    心の底では薄々気づきながらも、
    嘘を信じ続けるしかない銃後の女たち。
    その女に嘘を語り続けるしかない老人(彼は満州の馬賊だったと言い張るが、これも、実は嘘で、小日向白朗の話を自分のこととして語っていたようだ。)
    お互いのために嘘が必要であった。
    そして、その両者で自警団を組織していた。

    そこにその集団を相対化する外部からの視点、2人の兵士が現れる。
    二人はこの集団に巻き込まれながらも、
    一人は引いた眼線でその集団を見つづけ、
    もう一人はその集団に取り込まれていく。(後者は、体が弱く何度も兵役免除になっていて、そのことを自分で悔しい・申し訳ないと思っていた劣等兵であるというのも面白い)
    そして、8月15日(敗戦)を迎える。
    それでも、集団は敗戦を信じない。

    戦時中の特殊な(架空の)物語だが、
    これが戦争の本質そのものだとも感じた。
    そして、これはかつての戦争時以上に現在の社会そのものを表象しているのではないか。
    原発神話などは明るみに出た顕著な例だが、皆が薄々オカシイと感じながらも、それを信じることでしか成り立たない嘘。そんな嘘で社会が均衡を保っているという、、、、。

    戦争に敗れたと言われても、それでもその事実を受け入れることができず、敗れたことを認めない人と、敗れたことを受け入れた人とで対立するというのは。ブラジルの日本人移民の間で起きた「勝ち組」「負け組」抗争を思い出す。まさにこの物語のようなことはブラジルで起きていたのだ。この物語のように日本の農村でもそんなことがあったのかは知らないが。(おそらくなかったであろう。)

    また、老人が五族協和を謳った満州の嘘を背負っているということも、構造的に面白い。

    そんな史実を踏まえて書かれたものかはわからないが、架空の物語でありながら、妙なリアリティがある。

    しかも、そこで戦う武器は、木をそれに見たてただけの偽鉄砲、木と紙でできた偽戦車。さらに、案山子を人間に見たてた偽軍隊。
    嘘で集団の結束を固めている集団は、武力に関しても徹底して嘘に基づいている。
    これは、当時の日本軍の虚妄・バカバカしさを揶揄しているようにも見える反面、何か単純な風刺とも言えない感覚も喚起させられる。

    それは「魂を込めれば、それは本物の武器となり、鉄砲も戦車の大砲も火を噴くことができる。案山子は本物の軍隊になる。」という描き方が、
    演劇表現そのものの可能性を語っているようにも思えるからだ。

    嘘は現実を見えなくするものであるとともに、
    本物をも上回るものに変える力とも見ている。
    嘘に対しての批評と、共感。

    ここに、東氏のアンビバレンスが表れているように感じた。

    同時に、ここには一般的な生活者というものに対する東氏の分裂する想いも感じられる。お上の言うことを盲信してしまう者への批評と、そうすることでしか生きていくことができない者への共感。
    どちらかと言えば、後者の方が強いのではないか。

    これまでの東作品(『鬼灯町鬼灯通り三丁目』など)でも、戦場ではなく銃後に向ける視線の中に、戦争に振り回されながらも強かに生きていく生活者へ共感が強くあったように感じる。

    この生活者に対する引き裂かれた視点こそが、東憲司氏の根底にあるような気がする。

    <追記>
    説教節の本(『中世の貧民 説教師と廻国芸人』塩見鮮一郎)を読んでいたら、もともと案山子とは人であったと書いてあった。
    目の見えぬ者、足の悪い者が、他の仕事ができないため、差別され、鳥追いとして働かされていたということらしい。
    東憲司氏がその歴史を背負った上で、案山子の物語を書いているのかどうかは、作品からだけでは判断できないが、いずれにせよ、かつて人であった案山子が、人形になり、更にその人形を再度人として蘇生させる物語だとう読みもできてしまう。大げさに言えば、差別された者の復権の物語とも。それが過剰な我田引水の解釈だったとしても、そのような読みさえもできてしまうこの作品の奥深さを、観劇後何日も経ってから感じた。

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    2014/02/15 11:54

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