辻親八に酔いしれた
『トローチ』は、一回一錠までと決まった用法のもと舐めなければならない。その名称を語るだけあり、何度もリピート観劇をし「増幅する味」ではなく、一度目の「感動」を噛み締めたい趣向であった。
アメリカ・ハワイ州は、ワイキキの白浜ビーチと青空が数多くの写真にフォーカスされてきた世界屈指のリゾート地である。他のマーシャル諸島と同様、日系移民が暮らす太平洋の島だ。「フラダンス」「アロハ・シャツ」「ロコモコ」「ブルーハワイ」等を日本に広め、文化的な繋がりも深い。
ハワイという海外を舞台としたのにもかかわらず、現地人を「日系」としたため、圧倒するリアリティを確保している。このことは、今まで脚本家、演出家が見落とす対象であった「日系社会」を改めて浮き彫りにし、私たちのアイデンティティを再考させるコンセプトだろう。
文句を告げる観客すらいないのだと思われるが、藤尾一郎役・辻親八氏がトノサマガエルのごとく豪快な演技で存在感を示していた。他の「日系人」がアメリカ・ドラマに出演する俳優のような口調をすれば当然、劇場は笑いに包まれることだろう。翻訳劇だと、吹き替え声優を担当することはあるが、この『母乳とブランデー』は、むしろ英語も交え、70年代ホーム・コメディの当事者であった。
ところが、辻親八氏は ひとりの日本人として、こうした演技に並ぶ。
脚本・太田善也氏は、カナダ映画『人生ブラボー!』を鑑賞され、構想を得た可能性がある。
第一回公演ということは、すなわち旗揚げ公演だ。この冠すら不必要なほど、コメディの見せ方は洗練されており、私は一定数の評価を獲得したと思う。
ソチ五輪を欧州各国がボイコットするかもしれないテーマを、(観客は笑ったが)真剣に扱ったことは、特筆に値する。