TRIBES トライブス 公演情報 世田谷パブリックシアター「TRIBES トライブス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    音の闇へ
    田中圭さんと中島朋子さんの熱演は一見の価値有り。「聞こえないことがこんなにうるさいなんて。」先天性聴覚障害と後天性の違い、そして閉ざされていくことの恐怖。激しい手話での攻防に息を呑む。

    ネタバレBOX

    黒光りする床。
    中央にグランドピアノ。
    このピアノは、テーブルとなり、ベッドとなります。
    出演者は聾唖のカップルが白い服で、健常者は黒い服。
    まるでその純粋さと、汚れを表しているようです。

    この聾唖の二人には、決定的な違いがあります。
    それは、聴覚障害が先天性と後天性。
    先天性のビリーは、『音』の世界観を持たず、
    後天性のシルビアは、『音』を失っていく恐怖に苛まれるのです。

    ビリーは家族から愛され、その愛は、彼を特別扱いしないことで表現されています。
    だからビリーは聾唖者の世界を拒み、読唇術を駆使してコミュニケートしてきました。
    まるで手話を使って生活する聾唖者を蔑むようにして。

    シルビアは、両親が聾唖者で、自分もやがて聞こえなくなる運命を背負い、
    いままさに聴力を失っていく過程を生きています。

    ビリーはシルビアと出会って、手話をコミュニケート・ツールとして活用し
    世界を広げるとともに、
    読唇術を生かして裁判におけるVTR資料の分析の仕事を得ます。
    同時にビリーは、さまざまな感情を解放し、ついに家族と正面から向き合うのです。

    これまで、みんなの会話を読み取れず「何?何?」と聞いても、
    「何でもない。」とごまかされ、疎外感を感じていた。
    家族は僕の方(聞こえない世界)へ来てくれない。
    誰も手話を覚えようとしない。
    僕の話を聞こうと、僕の考えを知ろうとしてはくれなかった。

    手話を覚えたことで、対話が生まれ、人間の付き合いを味わい、
    同時に家族への怒りを解放していきます。
    シルビアを通訳にしての家族への攻撃は迫力があります。
    怒りが見えます。

    僕等を下等動物だとおもっているんだろ。

    それは初めてシルビアが家に来た時に、
    手話が話し言葉に劣っている=人間が劣っている
    という論理を家族が抱いていると感じ取るのです。
    同時にそれは、感情も欠如した人間だと考えているのだろうとシルビアが指摘します。


    わたしの中にも、そうした考えの闇が、
    心の奥底に小さく存在しているように思えて、ドキッとするのです。

    「聞こえないことがこんなにうるさいなんて。」
    真逆の表現を使った優れた比喩が高尚であることはかつて学んだが、
    こんなにもリアルな表現を聞いたことはありませんでした。

    みんなが互いを愛しながらも、上手に伝えることができず、
    すれ違い、罵り合って、目を逸らしていた家族。
    ある時、積もった感情、募った感情が、崩壊し爆発し、
    言葉の刃で斬りつける姿が痛々しかったです。

    その殺伐とした家族の関係性を表したかのような一幕から感じられる、苛立ちに比べ、
    二幕の露わになっていく感情には、キリキリと身と心を切り刻まれているような
    痛みを感じました。

    田中圭さん、中島朋子さんの熱演は、一見の価値ありです。

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    2014/01/15 02:13

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