30才になった少年A 公演情報 Sun-mallstudio produce「30才になった少年A」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    世間
    昨年9月に新宿ゴールデン街劇場でアフリカン寺越企画によって上演された脚本を
    リニューアルしてスケールを大きくしたというもの。
    主演のアフリカン寺越は相変わらずの熱量で隙のないなりきりぶり。
    新聞店に住込みで働く男の部屋を舞台にした前回の閉鎖的な設定から
    一階店舗部分と二階居室部分に分かれた舞台、
    登場人物も5人から11人に増え、確かに規模は大きくなった。
    増えたのは“世間”の人数である。

    個人的な好みと、前回公演を観ているという事情もあるのだが、
    あの極小空間での濃密な“行き場の無さ”が拡散してしまったように感じた。
    例えるなら、前回公演は岸を削るような急流だったが
    今回は川幅が広くなった分流れが緩やかになった印象。
    しかしこの重いテーマを、直球ストレートでど真ん中めがけて来る感じが素晴らしい。

    ネタバレBOX

    中学生の時、自分が描いた漫画をめぐる喧嘩から
    同級生を橋の上から突き落として死なせた32才の男(アフリカン寺越)は
    3年ぶりにその町に戻り、新聞店の住込み従業員として働いている。
    ワケありの従業員を雇う新聞販売店の店長、
    やはり犯罪歴のある同僚とその彼女、
    橋の上で起こったあの事件を目撃しながら何も出来なかった教師、
    彼を救うという名目で強引に通ってくる新興宗教の女、
    それらが入れ替わり立ち替わり訪れる部屋で、男は漫画を描き続ける。
    そしてついにここでも、男の過去が商店街で噂になり始める。
    店の存続さえ危うくなり、追い詰められた店長は
    「お前を橋の上から突き落としてやる」と迫る…。

    広くなった空間と増えた人数で描かれるのは、いわゆる“世間”というやつだ。
    彼を拒否し、あの小さな、漫画の本棚しかない部屋へ彼を追いやった“世間”である。
    その中に、前回は無かった「宗教」を取り入れたのは
    “もしかしたら救われるかもしれない”という一瞬の希望を与えて面白かった。
    だが辞めていく事務員とか、通信制高校の先生・生徒、商店街の人等
    前回登場しなかった人物が出て来ることの効果はそれほど感じられなかった。
    それら“世間一般”を一切省いた前回の方が、
    まさに“世間を狭く”生きている男の人生がくっきりと浮かび上がった気がする。
    男の現在は、世間の仕打ちの結果だからだ。

    人殺しを雇っている店などもう駄目だ、と絶望した店長が
    「お前を橋の上から突き落としてやる」と迫るところでは
    相変わらずアフリカン寺越の表情に見ごたえがあった。
    今回の方が、本当に突き落とされるような気がして暗澹とした。
    店長が「商店街の人に過去を正直に話せ、それでまたこのまま店を続けよう」と言い、
    男が「それは今までの経験からうまくいかない」と答えるやりとりが挿入されているである。
    何度も希望を持って、その都度潰された悲痛な思いがにじむ台詞だ。
    考えられるたったひとつの方法がボツになあった後の「突き落としてやる」だから
    なおさら選択の無さが胸に迫って、観ている私ももうダメなんだという気がした。

    罪を償ってやり直せばいい、ときれい事のように言うが
    実際過去に罪を犯した人と身近に接して心からそう言えるか、
    ということを鋭く問いかけて来て、舞台の“世間”を批判しつつ痛みを感じる。
    同僚のカップルには「過去は過去、今やってないなら問題ないじゃない?」と言いながら
    自分はその言葉に全く救われていないという矛盾。

    事件の現場となったこの町に、何でわざわざ男が帰ってきたのかと思うが
    それはたったひとり、彼を受け入れてくれた新聞販売店の店長がいたからなのだ。
    あちこち流れて、行く先々で過去がばれると拒否されて来た男が
    過去を知りながら「一緒に働こう」と言ってくれたことにどれほど救われたか
    その切なる思いが、危険区域での暮らしを決断させたのだと思う。

    オーバーアクト気味ながら緊張感のある役者陣が良かった。
    男の罪と一緒に自分の人生も壊れていった元教師役の吉水恭子さん、
    後悔ともどかしさに満ちたキツイ物言いが上手い。
    全編を通してギリギリの“長い間”が今回も効いている。
    シリアスな状況で時折笑いを誘うペーソスも効果的。

    前回の公演を観たのでつい比較してしまうのだが、
    何と言ってもアフリカン寺越あっての作品である事に変わりは無く、
    それがこの作品の力であると思う。
    この人、この風貌で他にどんなキャラを演じるのかなあと思った。

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    2014/01/10 01:42

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