銀色の蛸は五番目の手で握手する 公演情報 ポップンマッシュルームチキン野郎「銀色の蛸は五番目の手で握手する」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    300近いキャパシティのシアターサンモールに、初進出!
    このサイズでも十分にやっていけることを証明した、記念的作品。
    いろんな意味でのバランスの良さが功を奏した。
    彼らのスタイルが確立した作品。

    と偉そうなことを言ってみる。

    ネタバレBOX

    初めてポップンマッシュルームチキン野郎(長いので以下「ポップンマッシュルチキン野郎」とする)を観たときに感じたのは、
    「この笑いは、自分が好きやつではない」
    ということ。

    しかし、何か引っかかるものがあった。
    それは「センチメンタリズム」。
    「ベタ」と言い切っていいぐらいのセンチメンタリズムだ。

    お下品でブラックな笑いの中にそれが確実にある。
    だから「もう1回観てみよう」と思った。

    そして気がついたのだ。
    お下品でブラックなのは、ある種のサービスであり、それをストーリーに散りばめることで、恥ずかしくなって、身体が痒くなってしまうような、純愛だの献身だのといった、本当に言いたかったことを、言えてしまえるということ。

    そういう見方をすると、少し合点がいく。

    前にも感想で書いたが、どの役者さんも相当個性的ではあるのだが、ヘンにそれを押しすぎないし、例えば、デブだとかハゲだとかと言った一番つまらない「ありがち」なやつを定番的に伝家の宝刀とせず、たとえ自分の出番ではグイグイ前に出たとしても、他の役者のところでは、さっと引き悪目立ちをしない。
    そういうところが、きちんと考えられていて、きちんと自分の役割を「演じて」いるのだ。
    しかも「演じている」感を出さずに。
    これは演出も役者もうまいとしか言いようがない。

    作品全体が、おふざけや、その勢いでどうにかしようと思っていないということなのだ。

    で、コメディフェスティバルで見せてくれた前作は、持ち時間が短いということもあって、非常にタイトにポイントを突いてきた。
    その結果、全体的にバランスの良い優れたコメディになっていたのは、ご覧になった方の記憶に新しいと思う。

    そして、今回、今までとまったく違う、大きなサイズの劇場での上演。
    正直、どうなってしまうのか、多少の不安があった。
    今までの、言わば、声も表情も確実に届くスケールでの芝居とは異なってくるからだ。

    しかし、そんな不安感を払拭するように、見事に素晴らしいバランスの作品となっていた。

    青春と純愛をベタすぎるセンチメンタリズムが物語を貫く。

    自分に自信がない主人公が、中学で一番の女性に憧れ、破れる。そして、自分は己の進みたい道に向かい、大成功する、といったストーリーは、この作品のすべての設定を取り外してしまったら、どこにでもあるような普通のストーリーだったかもしれない。

    さらに言うと、自分が憧れていた女性が、誰もがうらやむようなカッコいい先輩と結婚したにもかかわらず、不幸になっていた。しかも自分は超一流のサッカー選手になって彼女の前に現れる。そんな童貞臭い、都合の良いストーリーなのだ。
    さらにさらに、彼女を助けるために自己犠牲を払う、なんて!

    よくよく考えると、なんちゅうストーリーだ!

    でも、そんなベタベタなストーリーであっても、観客がヘンな突っ込みをせずに、ストーリーに入り込んでいける、納得の展開で見せるうまさがあるのだ。

    それは、単にお下品でブラックな笑いを入れればいいのではなく、その「バランス」と「センス」がかなり必要だ。
    ブラックにしてもお下品にしても、度を超さず、うまく収めなくてはならない。
    そこのさじ加減は、かなり難しいと言える。

    彼らはそれをやってのけ、自分たちのスタイルを手に入れたと言っていい。
    シアターサンモールのサイズで上演しても遜色のないモノだと言ってもいい。

    これは彼らの新たな第一歩だ。

    面白くって、少し毒があって、だけどホロリとさせる(ポロリではなく)。
    それは鉄板でウケるのではないだろうか。

    戦略的に考えてたどり着いたのかどうかはわからないが、この路線を続けていけば、マニアな客ではない、普通の面白演劇好きな人たちがお客さんになってくれるだろう。

    偉そうに言わせてもらうと、全方向的な客層にウケるのではなく、今までのポリシーを貫き、「これ嫌いだ」という人がある程度いるぐらいの感じで進んでくれたら、とてもうれしいのだが。テレビ放映はできないぐらいの毒はあってもいいと思う。

    さらに言えば、もう一回り大きくなっていくには、どうするのか、を絶えず考えていく必要もあろう。



    今後を考えると、役者さんたちにも、サイズに合った、演技や発声が求められてくる。
    それは実感したはずだ。どうにか台詞を置いてくるだけな、演技的には厳しい役者がいたのだが、それは自分でもわかっているだろう。

    ハナ子を演じた小岩崎小恵さんは、少し悲しくて健気なところがうまい。前回に引き続き、他の役者さんたちとは違った次元にいたのだが、今後も同じような設定の役に固定するのか、あるいは冒険するのかが気になってくる。

    後白河先生(サイショモンドダスト★さん)、出っ歯(杉岡あきこさん)、主人公の父・清一(NPO法人さん)、ヤドクビッチ(今井孝祐さん)、美しが丘先生(高橋ゆきさん)あたりの役者さんたちは、とてもいいポジションに配置され、自分の役を丁寧に、そして下品に、演じていて、ストーリーを盛り上げていた。
    こういう役者さんたちがいて、それはつまり誰か一人が「飛び道具」のようになるのではなく、バランスがあるからこそ、この劇団のこの物語が成立しているのだということも実感できた。

    っていうか、褒めすぎたかな。
    でも面白かった。
    次回も楽しみになってくる。

    ……そう言えばハナ子って2人も殺してるんですよね。

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    2013/12/29 04:34

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