アクアリウム 公演情報 DULL-COLORED POP「アクアリウム」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    熱帯魚たち
    括りたがるオヤジ世代、括られて影響される素直な若者たち、
    世代の違いをこれ以上ないほどの振れ幅で見せる演出が素晴らしい。
    限られた選択の中でしたたかに小ずるく生きる者もいる。
    小さなアクアリウムで一生を終える、熱帯魚達の儚い生態。

    ネタバレBOX

    小劇場系にはちょっと珍しい黒い幕の前で、前説の谷さんが
    「古いタイプのお芝居をしますが、すぐ終わりますので…」と言って笑いを誘った。
    確かに、“伝兵衛な”部長(大原研二)とその部下菊地(一色洋平)の
    脳いっ血起こしそうに力の入ったやりとりは古いタイプ、っていうか
    古い年代の言いそうな“今の若いもん批判”と“根拠のない決めつけ”が強烈。
    ここでもう笑わせながら、時代の違いや世代間の深い溝が露わになる。

    あの“少年A”と同じ1982年生まれの住人が集まっているシェアハウスが舞台。
    舞台手前中央にきれいな熱帯魚の水槽が、ほうっと明るみを帯びて置かれている。
    大家のゆかり(中林舞)とてつ(東谷英人)は仕事をしているが
    他の4人はほぼ無職だ。(あとワニとトリが普通に同居している)
    すみ(百花亜希)は余命短い病人だし、ゆう(堀奈津美)は生活保護を受けている。
    フリーターのしんや(渡邊亮)は、自分に自信がなくいつも暗くうつむき加減。
    ゆうき(中間統彦)は10代、親の金で暮らす気楽な若者。
    ここに北池袋で起こった猟奇殺人の犯人を捜査するため二人の刑事がやって来る。
    刑事に暴露された各々の過去や経歴に、表面上穏やかだったハウスは大揺れ。
    互いを疑い、批判し、ついにはハウスを出て行く者も現われる…。

    アクアリウムに象徴される現代の若者像が鮮やか。
    徹底して管理された中で生まれ育ち、外を知らない、出ようとしない。
    自分の限界を広げるより、定時に与えられるわずかなえさで生き延びる事を選ぶ。
    ただこれがベストだとは思っていない。
    人との距離が上手く取れない反面、人とふれあうことに憧れていたりする。
    シェアハウスなんて微妙にめんどくさい住み方を選ぶことからも
    中途半端な価値観の揺らぎに翻弄される姿が透けて見える。

    オヤジ部長の強引な論理が妙な説得力を持つのはその勢いと迷いの無さだ。
    世間代表みたいな部長の如く、社会は世代を括りたがる。
    “サカキバラ世代”だの“ゆとり世代”だのと、色をつけてひとまとめにしようとする。
    一方括られた側も結構それを受け入れ、その仲間に入ろうとする。
    実はそれぞれ個性があるのに、“括られたがる”のもまた人の習性なのだ。
    群れから外れる孤独は誰もが怖れるところだから。

    役者陣の充実が素晴らしく、怒涛の台詞が生き生きと走りまわる感じ。
    大原研二さんのアクの強さ、一色洋平さんの滑舌と軽やかな動きが秀逸、
    トーンの低いシェアハウスの日常との対比を鮮やかにする。
    生活保護受給者のゆうがキレて「シェアハウスなんて掃き溜めみたいな所」と叫ぶところ、
    強い自嘲といら立ち、金の有る者が無い者を見下す態度への怒りがこもっていて
    その説得力に思わず惹き込まれた。

    “サカキバラ世代”らしい特徴のひとつとされる
    「自分もいつか誰かを殺してしまうんじゃないかという不安」を抱いている
    しんやの気持ちを、誰も本当に理解できていないというのもリアルな展開。
    そんな「いつかやっちゃいそう」な人が大勢いたら、マジ怖くて出かけられないわ。
    特異なニュースの犯人と同世代だからというだけでひとくくりにするという
    マスコミ好みの乱暴な論理が与える影響に対する、作者の冷静な視点を感じた。

    少年A(清水那保)が自分のしたことを語る場面、
    もっと直接しんやに影響を与えるような演出がされるのかと思ったが
    絡みが希薄な印象を受けた。
    ワニとトリの存在理由もイマイチよく分からなかった。
    シェアハウスの癒しになっていたとは思うけれど…。

    アクアリウムの小さな社会の営みは、
    日々危ういバランスの上に成り立っているのだなぁと思った。




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    2013/12/12 00:40

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