「ハックルベリーにさよならを」「水平線の歩き方」 公演情報 演劇集団キャラメルボックス「「ハックルベリーにさよならを」「水平線の歩き方」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★

    ブログライター枠で無料で観劇
    ネタバレなので、ネタバレBOXに書きます。

    ネタバレBOX

    水平線の歩き方
    ブログライター枠で無料で見たので、20列目、10番という、シアターアプルではほぼ最後尾という、あまり良いとはいえない条件での観劇。

    物語は、一人で生きてきたつもりだった青年が、一人で生きていなかったことに気がつくという話で、テーマ自体はそれほど新しいものではない。ポイントはそれをどうやって見せるか、なのだが、この芝居はマザコン青年のドラマとして仕上げているところがちょっとした工夫。そのことはさておき、特に物語の前半、あまりにも説明的なのが気になる。また、母親と主人公の置かれている状況に関するねたばれが早すぎるのはどうかと思う。これはこの劇団の良いところでもあり、悪いところでもあるのだが、観客に対して親切すぎる。謎解きは大体クライマックスと相場が決まっているもの。ラストは、アサミにあたっているスポットが徐々に暗くなると同時に、安部、豊川といった主要登場人物の声がかかり、スポットがあたり、そして照明を一気に明るくして終わり、とか、そういった、照明を使った工夫があったらどうだったのかと思う。この劇団の芝居ではいつも思うのだけれど、照明、下手ではないのだけれど、もっともっと効果的に使えると思う。これは技術的な問題ではなく、演出の問題なのだが。演出サイドに「照明をとことん効果的に使ってやろう」という貪欲さがないのかもしれない。

    膝に故障を抱えたラガーマンの話なのだが、杖のつき方などは上手に表現していたと思う。実際に一年以上びっこで、松葉杖との付き合いが長い僕が見ても違和感はなかった。ときどき左脚が悪いのに松葉杖を左側につくというとんでもない演出にぶち当たったりするのだけれど、この芝居はそんなことはなかった。一方、故障の大きさと競技への影響に関する考察についてはイマイチと言えるかもしれない。再起不能の大怪我が初めての靭帯断裂、という設定はかなり違和感がある。靭帯断裂というのは僕もやっているが、決して選手生命が途絶えるような怪我ではない。スキーで見ても、一流どころの選手はほとんど靭帯断裂を経験している。また、サッカーでも珍しくない。ラグビーはサッカーやスキーに比べたら接触の機会は確かに多いが、選手生命が終了というのは大げさだ。

    役者では、岡田♂が結構良かったと思う。今までの彼の演技の中では一番印象が良い。もともとひいきの前田さんは今まで通りの存在感なのだが、怪演というほどのはちきれ方がなく、やや型にはまってしまっている印象。今回の役柄なら、もうちょっと外れる演出があったらどうだったのか。

    芝居初心者には結構お勧めできるが、芝居を見慣れている人にとってはやや物足りなさがあると思う。しかし、これは劇団のキャラクターでもある。結果的に飽きが早い、ということにつながるのだが(笑)。

    前から7、8列目程度なら4000円払う価値があるが、それより後ろだと、ちょっと厳しい。

    と、ここまでは普通のレビュー。しかし、この芝居の評価はここで終わりません。かなり厳しい評価が続きますので、読みたくない人はさようなら。ねたばれを含みますので、ねたばれが嫌な人もサヨウナラ。

    この芝居、個人的に許せない点がある。それは主人公に飲酒運転をさせたこと。結果として主人公は事故を起こし、そして死線をさまようことになる。つまり罰を受けたわけだが、ではその事故が必然だったのかといえばそんなことはない。他にもこのラストにつなげる方法はあったはず。ラグビーができなくなって、やけを起こして、飲酒運転をして、自爆事故を起こして重体、って、なんじゃそりゃ、って感じ。そして、さらに筋悪なことに、飲酒運転をして事故を起こした主人公を許すという主旨の発言までもが含まれる。制作者サイドとしては決して飲酒運転を肯定するというスタンスではないと思うけれど、そういう形で誤解される可能性は否定できず、それなら最初からこんな本は書くべきではない。

    僕は自分のブログで散々書いているけれど、飲酒運転というのは情状酌量のない罪だと思っている。それは事故につながろうが、つながらなかろうが、である。それが招くかもしれない悲劇と、飲酒運転の必然性をはかりにかければ、飲んでから乗るだけで重罪だと思っている。今回の芝居のラストの展開は、そうした僕の価値観から言って完全にアウツ。そして、そのことに劇団の誰もが疑問を持たなかったことに驚きを禁じえない。必要がないのに自殺について詳細に報道してかえって自殺の増加を招くことがあるのと同様、飲酒したあとに自動車を運転することがストーリー上重要な役割を果たすわけではないのに、酒を飲んで車を運転するという可能性を提示したというのはいかがなものか。そういえば、今日の前説では芝居の録音を禁止する一方で、「当劇団の上川はラジカセで録音したことがあります」と述べていた。これを聞いた客は「あぁ、やっても良いんだ」と思うかも知れず、「上川がやったことがある」というのは完全に余計な情報である。この劇団の関係者は犯罪を誘発することに対する感受性が低いのかもしれない。

    ということで、この芝居の評価は☆ゼロ。たとえそれに至るまでがどんなにすばらしくても、そして役者の演技が良かったとしても、観る価値はないと思う。

    今からでも遅くないから、主人公をあくまでも肯定する(部分的であったとしても)のであれば、ラストに至る経緯は書き換えるべきだと思う。酔っ払ってホームから落ちたでも、酔っ払って車道を歩いていて轢かれたでも、真冬の雪の中で酔っ払って凍死しかけているでも、他にやりようはいくらでもあるのだ。




    ハックルベリーにさよならを
    「水平線の歩き方」同様、ブログライター枠でただで観劇。観たのは20列、17番で、かなり後ろの方だけれど、中央というポジション。

    一人になりたがっている子供がちょびっと成長するという話。この芝居、ストーリー上の難点として、「水平線の歩き方」同様、ねたばれが早すぎるというのがある。最初から大内と實川さんの関係がギクシャクしていて、その謎がはっきりしないところがこの芝居の肝である。ところが、そのねたばれが早い。その謎解きをラストに持ってきたらもっとずっと良かったと思う。

    演出上の細かいところを言うと、何がボートになるのか、というところで工夫があるのだが、そもそもその小道具自体いらない気もする。そうした小道具を使わないと、結果として観客の想像力に依存することになるわけだが、そういう部分でこの劇団は観る側の能力を信頼していないところがある。ストーリー面でもそうだけれど、もうちょっと観る側に自由度を持たせたらどうなんだろうな、と思う。

    實川さんの「男の子」の演技はいつも上手。できれば野獣降臨のブリアンの役などをやらせてみたい。少年役の名俳優は結構多いのだけれど、今の彼女は結構色々できそうな、おいしい時期にいると思う。ぜひ一度、野田秀樹演出の舞台に立ってもらいたい。また、坂口さんはいつもどおり安定した演技だけれど、いつも似たようなキャラ。もうちょっと新しいキャラを与えられないものか。大内さんは今回は存在感が今ひとつだった。彼は最近キャラメル以外で2回観ているのだが、客演のほうが生き生きしていた印象がある。井上さんの怪演っぷりが昔の伊東由美子さんみたいで面白かった。今後の活躍が楽しみ。

    時間的には水平線よりもずいぶん時間が早く感じた。役者の面で言えば、この面子はかなり良い面子なので、ハーフではもったいない気もする。

    本当に細かいところでひとつ気になったのは、逃げる→捕まえる、となるべき演技が、逃げると捕まえるが同時になってしまっていて、やや不自然だったこと。

    ところで、今から10年前って、携帯電話はそんなにポピュラーなグッズだったかなぁ。まだポケベルとか、PHSとか、そういう時代だった気もする。

    こちらも芝居初心者には結構お勧めできる。「水平線の歩き方」よりは若干工夫がある。前から10列目ぐらいなら4000円払う価値があると思う。

    ところで、キャラメルボックスがこの手のハーフタイムシアターが赤字だと表明している。もちろんその内容は嘘ではないと思うのだけれど、見る側からすれば、この1時間の芝居に対して4000円というのはやはり割高感が伴う。普段の半分の分量なのに4000円かぁ、というのが正直なところ。劇場は2時間一本でも1時間二本でも基本的に賃料は一緒のはず(多少の変動はあるかもしれないけれど)。役者の日当も、8人を二本立てでも、16人で一本でも、基本的に変わらないはず。となると、パンフレットをつくったり、舞台装置にお金をかけたり、というところが二倍になるのが痛いのだろう。たしかに2時間一本よりは1時間二本の方が絶対にお金がかかる。しかし、その点で言えば2時間一本なら6500円のところ、1時間2本なら合計8000円なわけで、そのあたりの差額は吸収できていても良いのに、と思うのである。このあたりを考えると、ハーフタイムシアターに関しては通常公演よりも動員が難しいということなのかも知れない。しかし、ちょっとこの芝居に4000円より高額を払うのは難しいよなぁ、というのが正直なところ。僕はこの劇団のハーフタイムシアターが結構好きなんだけれど、赤字じゃぁなぁ。なかなか「もっとやってくれ」とも言えない。

    それからもう一つ思うのは、もうちょっと座席ごとの金額設定を細かく分けたらどうなのか、ということ。最前列と20列目が同じ値段と言うのはいかにも解せない。最前列なら15000円、5列目なら10000円、10列目なら5000円、15列目以降なら2000円といった具合に、場所によって細かく価格設定をしたらどうなんだろう。キャラメルボックスの芝居は座席の位置によってかなり受ける印象が異なる。制作サイドはそういう指摘に対して大抵の場合、「後ろから観ると、芝居の全体像が観えて、それはそれで面白いんですよ」ということを言うのだが、それは方便。役者の能力にもよるが、やはり芝居は前で観るに越したことはない。汗が見える、涙が見える、つばが見える位置で見る迫力は、20列で見るそれとは全く異なる。そして、後ろに行けば後ろに行くほど、それは演劇から映画の領域に近くなる。今日は20列目でタダで観たわけだが、僕はこの場所での観劇には2000円でも払うことはない。「じゃぁ、ファンクラブに入るなり、頑張って発売初日にチケットを取れば良いじゃないか」という指摘がありそう。ごもっとも。しかし、それではファン層の拡大にはつながらない。コアなファンの、コアなファンによる、コアなファンのためのキャラメルボックスになるだろう。実際、劇団を取り巻く雰囲気はそういうものになってきている気がする。そして、そのせいもあって、僕なども観にいく機会がだんだん減ってきているのである。既存のファンも大事だが、新しいファンを獲得することも考えてみたらどうなんだろう。それがなかなか難しいことだということは百も承知なのだけれど。

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    2008/06/19 09:42

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