アクアリウム 公演情報 DULL-COLORED POP「アクアリウム」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    素晴らしい演出と演技(追記あり)
    さりげなく、ポップな作風なれど、その奥に強い現代への問いかけがある脚本。
    緩急の絶妙な演出。
    共に、素晴らしかった。

    個性的で、力のある役者たちも、とても魅力的だった。

    冒頭から中盤までは文句なく素晴らしかった。
    後半<あと一歩、、、>と思う部分があったが、それは、プレヴュー公演だからだと思いたい。

    ※ネタバレの最後に、生活保護を受給して生活している田所優美の描き方についての違和感、その違和感から生じた作品全体についての印象の変化を追記しました。(12/18)

    ネタバレBOX

    冒頭から中盤までは、文句なく素晴らしかった。

    何と言っても、演出の緩急が絶妙だった。
    動的演技と静的な演技の切り替えの妙。
    谷賢一氏は、音楽的な感性のある演出家なのだと思う。

    ここで、警察を演じた大原研二さんと一色洋平さんのエネルギー溢れる動の演技も素晴らしかった。
    その一方で、シェアハウスの人たちの淡々とした静の演技も素晴らしかった。
    両者のバランスが絶妙だった。

    内容面でも、現代の若者を巡る問いかけが良かった。
    警察がある事件の捜査のために、クリスマスパーティをやっているシェアハウスに乗り込む。
    正義を振りかざす警察を、熱烈な演技をさせることで、極めてコミカルに描いているが、その裏には痛烈な批評性が隠されている。
    ひとつは、権力への批評性。警察の横暴な振る舞いを痛烈に批評している。痛烈と言っても、笑いの中に毒を含ませているので、堅苦しくなくとても痛快。
    奇しくも私が観た12月6日は、「特定秘密保護法」が成立した日。
    このような社会情勢の中にある空気感を、この作品はうまく捉えている。

    もうひとつは、年配の世代が押し付ける価値観への批評性。
    「最近の若者は、根性が足りない」「熱さが足りない」に代表される年配の言うガンバリズムへの批評性も見事に描かれている。
    ここで面白いのは、この批評性は両義的で、観ている間も、観終わった後も、この年配刑事の上から目線が嫌な反面、どこかで彼の言うことも一理あるんじゃないかと思えてしまうことだ。これは、さまに、物語内の話だけでは済まされず、今の社会が抱えている問題を的確に捉えているからこそ生じたものだろう。
    勿論、ブラック企業なども多く存在し、雇用・労働環境の変化によって、「若者の根性が足りない」という意見はナンセンスだという場合も多々ある。
    だが、本当に「根性がないだけ」という場合も存在する。おそらく、どちらか一方が問題なのではなく、その両者が問題なのだろう。
    この作品でも、その両者の間を揺れながら、物語が進んでいく。

    ただ、後半は少し乗り切れなかった部分もあった。
    それは、警察に「シャアハウスの住人の中に、先日起きた猟奇殺人の犯人がいるかもしれない」と言われ、シェアハウスの面々は動揺し、しんや(渡邊亮)が「出頭します」と言い始める部分から。しんやは事件を起こした訳ではないのだが、「今のままの生活をしていると、そのうち殺人をしてしまうかもしれない」という想いから、事前に出頭したいと言い出す。
    そこで神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)や秋葉原事件のことが語られる。両事件とも、犯人は1982年生まれ。しんやを含め、このシェアハウスに住む6人中4人が1982年生まれの31歳。理由なき犯罪などとも言われる事件を起こしてしまうこの世代の闇が、しんやの述懐を中心に語られる。それに呼応する形で、てつ(東谷英人)、ゆう(堀奈津美)の想いも加わる。(同じ年なのに、ゆかり(中林舞)はその感覚が理解できないというのも良い。)更に、少年A:酒鬼薔薇聖人(清水那保)も登場し、彼の犯行時の言葉も語られる。
    だが、私はここで、しん、てつ、ゆうの言っていることが、理屈上では「その感覚わかる、、、」と思う部分もあったが、それ以上には身につまされることはなかった。
    ここが、いまいち入り込めなかったので、ラストにかけての展開が物足りなく感じてしまった。

    また、ラストに、「アクアリウム」の生態系の話が、人間社会(シェアハウス)の人間関係の話と重ねて語られるのも、よくできていると思う反面、ちょっとキレイに終わりすぎかなという気がしないでもなかった。

    と不満も書いてしまったが、全般的に素晴らしかった。

    わに(中村梨那)やとり(若林えり)など、動物を擬人的に役として登場させると陳腐になる場合も多いが、この作品では、ファンタジーではないのに、うまくその世界が成り立っていた。

    私は、台詞をしゃべっていない時の役者の演技(聞き役など)を観るのが好きなのだが、そういう観点から見ても、役者さんたちはとても魅力的な演技だった。

    【追記】(12/18)

    観劇後、どうしても引っかかっていたことが、とても重要なことのように思えたので、追記する。
    生活保護を受けて生活している田所優美という人の描き方について、違和感を覚えた。
    確かに、生活保護を受けて楽をして生活している人も中にはいる。人気お笑い芸人の親が、生活に困っている訳ではないのに受給していた例も確かにある。
    だが、それは一部であり、多くの人は本当に苦しくて生活保護を受けている。それどころか、本当に生活が苦しいにもかかわらず、生活保護を受け付けてもらえない例もたくさんある。
    更に、私がこの芝居を見た12月6日に、改正生活保護法も成立し、改正の名の元に更に受給者の首を絞める施策が行われる。
    そのような社会情勢の中で、少ない登場人物の一人として、生活保護を受けてぬくぬく生活しているという人を描くというのは、とても危うい描き方だと思った。勿論、フィクションであるから、解釈は観客に委ねるということで構わない。
    実際、観劇直後は、私もこの点に引っかかってはいたものの、敢えて批判的なことは書かなかった。そうやってぬくぬく生活している人も確かにいるのだろうし、フィクションというのはそういう部分があっても仕方がないと思っていたからだ。だが、よく考えると、フィクションだからこそ、このような問題を扱う時は慎重になるべきだし、片方の見方に寄らない描き方はできたはずだと思い直した。

    そう考えると、この作品全体が、単に根性がない若者を上から批判的に観ているだけの作品のようにも見えだしてしまうのだ。
    雇用環境やブラック企業などによる過剰労働などの問題が背景にあって、若者が簡単に会社を辞めてしまう。それは根性の有る無しと関係ない部分も大きい。勿論、単に根性がないだけという場合もある。この点は、キワキワで両論が描かれていると観ている最中は好意的に観ていたが(わざわざ批判的に見ようと思って芝居を観ることはないので)、よくよく考えると、どちらかと言えば「根性がない」という方にウェイトが置かれていたのではないだろうか。
    いずれにせよ、現代の過酷な労働環境に関する言及はほんの少ししかなされていない。

    厳しく見ると、全体的に上から目線で描かれている作品のようにも見えてしまったのだ。
    ただ、これは批判的に見ようとした場合なので、その判断はきわどい。
    また、観劇時に好意的に見ていた時は、そのキワキワさこそが面白いと思っていたので、私が重箱の隅を楊枝でほじくっているだけなのかもしれない。

    好意的に見れば、作者も若い作・演出家なので、自己批評を含めて同世代を描いたというのなら、批判すべきもないとは思う。

    それに、上記のことを批判的に見たとしても、演出や演技の妙に関しては、その素晴らしさを損ねるものではないとういのは強調したい。

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    2013/12/07 02:34

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