『キートン!』 公演情報 劇団ひるやすみ「『キートン!』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    しなやかな音楽劇の紡ぎ方
    5pcs構成の生バンド、役者達の身体が織り上げるもの、さらには台詞の抑揚とリズム・・・。

    たちまちのうちに、舞台の語り口にどっぷりと嵌ってしまいました。

    このやり方ならば、胡散臭くならずに、海外の雰囲気を音楽劇としてもってこれるなぁとおもった。

    舞台に引き込まれつつ、そのメソッドに日本語による音楽劇の可能性を感じたことでした。

    ネタバレBOX

    物語のやってきかたがとても洒脱。

    そのシチュエーションや物語の背景が、
    台詞だけに頼らず舞台全体の動きから
    編み出されていく。
    生バンドの音が、単に音楽を奏でるだけではなく
    効果音として、さらには空間を染める色としても
    しなやかに機能していて。

    しかも、オンステージのバンドが奏でるからこそ
    紡ぎうるメリハリのようなものが舞台にあって、
    それほど複雑ではない物語の骨組にもかかわらず
    観る側がそのテンポで舞台に巻き込まれていく。

    役者達の台詞回しや所作について、
    最初こそちょっと違和感があるのですが、
    でも、すぐにそれが、
    バンドの音や舞台のミザンスにはとんでもなく絡みがよいことに気づく。
    ロールごとの台詞に織り込まれた、ちょっとした大仰さや、
    強めのメリハリや、どこか紋切り型な部分や、
    ステレオタイプな人物造形が、
    舞台に置かれるとそこに、物語の世界が開け、キャラクターたちが場に馴染みシーンごとの起伏となり、物語の顛末へと重なり
    観る側を心地よく閉じ込めていく。
    キーボード、フルート、バイオリン、チェロ、ドラム。
    音は、時に舞台全体を満たし、刹那のテンションとも、ロールたちの思いの息遣いともなり、ひとつずつの場ごとの心地よい厚みとともに観る側を舞台の世界に浸しこんでいく。

    複雑な物語でも、
    息を呑むほどに細微な想いが紡がれているわけでもないけれど、
    言葉ではなく、舞台全体で運ばれるような展開や、上質なウィットが舞台がとても魅力的に思える。

    さらに進化する余白もたくさんあるとは思うのです。
    細かい部分、たとえば役者達のダンスにはあと半歩の踏み出しが欲しいし、
    小道具の使い方もこじゃれていてて良い気がする。
    また、役者の動線だってもっと綺麗になるはず。

    でも、そうであったとしても、作り手が日本語で綴ったこの舞台には、
    これまでになかった、
    たとえばオフオフブロードウェイ風の音楽劇のテイストが、
    模倣や言い回しの翻訳ではなく「感覚訳」ともいえるやり方で
    導かれ観る側に供されているのはこの上もなく魅力的。
    そこに、日本語での音楽劇の新たな可能性を感じる。

    能や歌舞伎の中での日本語のリズムや抑揚があるように、
    音楽劇の日本語のリズムや抑揚が
    この作品には作り出されていて。
    そのやり方が音や踊りや歌が重ね合わせ、
    空気を織り上げる。
    その作劇の、言語と雰囲気の乖離を埋める様々な工夫に満ちた
    新しい力にわくわくする。

    この作り手の
    次の作品がとても楽しみになったことでした。

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    2013/10/03 13:05

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