帰郷 -The Homecoming- 公演情報 Runs First「帰郷 -The Homecoming-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    喪失感
    「ロンドンの下町に男だけで暮らす労働者ファミリーのもとへ、学者としてNYで成功した長男が数年ぶりに帰郷した。結婚後、実家に帰るのはこれがはじめてである。彼が妻を連れてきたことに、父、叔父、弟たちは色めき立つ。その結果…。」

    じっくり観られる、濃密な二時間の会話劇でした。
    翻訳がすごく耳に入ってきやすく、また、役者に馴染んでいて好印象。
    また、役者陣が巧みで、ドライな中に激情を忍ばせた台詞のやりとりが印象的。

    台詞と役者の動きの双方から、「こいつ何考えてるんだろう?」って部分が丁寧に立ち上がってきていて、一挙手一投足から目が離せない。
    色んな人が地球儀クルクルするシーンが好きでした。
    中央にある椅子は玉座のようでもあり、
    そこにステッキを手にして座る父(中嶋しゅう)は、
    さながら一国の王。この芝居はシェイクスピアですと言われても疑いのない存在感・粗野粗暴な雰囲気が素敵でした。

    ネタバレBOX

    長男の嫁(那須佐代子)の存在感が半端なく、そして美しかった。

    長男の嫁が家に来て、ウッヒョーイ女だー、てな所から段々話はおかしな所に進んでいく。
    長男(斉藤直樹)が居る前で、弟たちは嫁を押し倒したりなんだり。
    当然怒るだろ、と思うも、長男は、ただ見ている。
    冷ややかな視線にいささかの苛立ちは感じられるものの、
    より大きく、軽蔑に近い何かが漂うような雰囲気。

    家族はエスカレートし、嫁を売春婦としてこの町で働かせて金を儲けよう、という段に。

    長男はもうすぐアメリカに帰る。
    妻に対しては「残りたければ残れば」といった感じ。

    この、家族・夫婦のやり取りが、妙。
    人間ならば、愛し合っているならば自然に起こるであろう嫉妬や憤り、
    そういったものなしに、あるいは、思いが強いからこそ出てこないのかもしれないが、
    とにかく、表面的な爆発無しに話が進んでいく様が、
    何とも不可思議。
    決定的な何かが失われてしまっているような、
    人間を見ているのに違う生き物を見ているような、
    あるいは、人間の、極めて人間らしい側面を見ているような、
    一概に「これ」と言えない奇妙な感覚を味わった。

    母のいない家に、帰ってきた何か。

    ラストシーンは、父の玉座に長男の嫁が座り、
    その膝に末息子が顔を埋める。
    ルネサンスの聖母子を描いたような神々しい、しかし、何かが違う、
    見た事のない絵であった。

    表面に決して出てこない何か、
    あるいは、決して出すまいと努める事により、
    人間は、思ってもみない妙な方向に向かっているように見えた。

    こんなことありっこない。
    そういう異世界を見ているようでいて、
    この『帰郷』の世界にある冷たい戦いは、
    たしかに、この世のものなんだ、と感じる。

    家に戯曲のコピーがあるから、読み直そう。
    良い舞台でした。

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    2013/06/30 03:19

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