さよなら日本-瞑想のまま眠りたい- 公演情報 範宙遊泳「さよなら日本-瞑想のまま眠りたい-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    身体と映像に世界を編み上げて
    映像との融合ということであれば、
    これまでにもいろんな試みがあったと思うけれど、
    文字や色、さらには映像が
    ここまで生きて役者達とともに世界を組み上げていくのは
    はじめてみました。

    なにせ映像や画像ですから、
    当然役者と異なる印象や切っ先があって、
    でも、それらのパフォーマンスに抗うのではなく、
    むしろそれらと細微に呼吸をあわせニュアンスを作り物語を広げていく、
    ロールの不思議な実存感にがっつりと捉えられてしまいました。

    ネタバレBOX

    映像を取り込んでのお芝居ということであれば、
    前回公演でも試みがあって、
    すでに、そのときに、壁面に映し出されるものが、
    物語を切り出し、エッジを与えていくことに
    驚いたのですが、
    今回は、そこから更に一歩どころではなく、
    一足跳びに何段もの表現の進化があって・・・。

    色があって、それは場のトーンを醸し出す。
    その場は役者達によって編まれ、
    ツートンに色がそめらると、
    人物の想いもふたつの質感を撚るように編まれていく。

    文字は、場の雰囲気に硬質な感触を与える。
    それが会話として現れると、
    役者達の想いのふくらみが際立ち、
    情景として使われると(たとえば「朝」という文字が群で場を包むと)
    それは、観る側にとってステロタイプな肌触りとなり、
    そこに、この表現だからこそのロールの感触が映える。

    風景にロールたちが置かれ、
    役者たちの影が風景に実存感を与え、
    只のロールではなく、風景から切り出されたロールが
    観る側の印象となって存在する。
    役者達の身体が紡ぎだすニュアンスが、
    映像にとっての影となり、
    風景と、そのロールの想いと、場のなかでの座標のようなものが
    その際立ちの中にひとつの立体感として訪れて息を呑む。

    さらに、文字や映像にパフォーマンスが生まれて。
    そこにマージする役者たちの身体や醸される想いの感覚が、
    新たな動感とともに、
    観る側の既存の感覚の縛めを解きいて。

    もし、役者達が素舞台・素明かりの状態で演じたとすると、
    もっと生々しく実体を伴った感覚として訪れるであろうものが、
    映像とともにあると、
    不要な混沌や曖昧さが削がれ、
    鋭利に研がれた肌触りが生まれ、
    一方で削がれたり丸められたからこそ現れる感覚を伴って
    観る側につたわってくる。
    視座やフォーカスを、
    素で見えるものとは異なる位置に定められたような感覚もあって、、
    ルーズなつながりや、やわらかく不可避に訪れる感情や、
    流れる時間の肌触りが
    常ならぬ、でも奇異ということではなく、
    観る側に不思議に寄り添った
    ナチュラルな感覚の新たな表情として刻まれていくのです。

    その視座やフォーカスだから見えるもの、
    たとえば、
    ミミズの世界にしても、
    「あ」の喪失やおおきな「あ」の存在にしても、
    平面的なものが立体となり、
    立体的な感覚が平面の風景に収まることも
    その視座だと馴染み
    シーンたちがルーズに繋がることも、
    普通に過ごす時間ではロジックの如く平板に感じられる風貌が
    この世界では別の感覚に落とし込まれ、
    その新たな立体感に凌駕されてしまう。

    また、表現の手法もさることながら、
    様々な印象のひとつずつが塊としてではなく、
    糸の如くなって舞台に細微に編み上げてられていくことで
    さらに訪れる感触や広がりもあって。
    それは、舞台にあるがごとくにあるものでありながら、
    これまでに感じたことのないものとして織り上がって。
    息を呑みつつ、
    でも、力むわけでもなく、
    刹那から外れて思索を巡らせるわけでもなく、
    「こんな感覚が生まれ、世界が見えた・・・」と
    素直に驚き、とても自然な感覚で浸潤されたことでした。

    作り手の、この進化の先には何が生まれてくるのかが、
    とても楽しみ。
    焦ることなく、でも、期待を込めて、
    わくわくしていようと思います。

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    2013/05/31 07:13

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