もうひとつある世界の森に巣喰う深海魚たちの凱歌 公演情報 あなピグモ捕獲団「もうひとつある世界の森に巣喰う深海魚たちの凱歌」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    熟成肉の旨み
    携帯電話を失くした男の不安と混乱、そして見つかった携帯に残る着信履歴は
    すべて「麒麟Q」からだった…という冒頭からシュールな展開だが
    役者陣の説得力のある演技で飽きさせない。

    ネタバレBOX

    ひとりの男ハナブサ(大竹謙作)が携帯電話を失くした事に気づきパニックになる。
    その日1日の足取りを辿って店に問い合わせてもわからない。
    不意にポケットから出て来た携帯には「麒麟Q」からの着信履歴があり
    なぜか麒麟Qにしか繋がらない。
    「助けが必要だろう?」という麒麟Q。
    麒麟Qとは一体誰なのか?

    街中から森に迷い込んだハナブサはその後
    エレベーターの中にいたり、病院で診察を受けたり、彼女とドライブしたりと
    目まぐるしく場所を移動し続ける。

    携帯電話を失くしただけで、まるで世界を失ったように寄る辺ないハナブサ。
    大事な記憶を辿ってもすぐに途切れ、居場所を探して転々とする。
    そもそも携帯に依存し過ぎて私たちは多くを忘れるようになった。
    電話番号、スケジュール、漢字、名前…。
    そしてネット社会に溺れて自分自身を見失う。
    これはハナブサが自己を取り戻すまでのロードムービーか。

    ラスト、天井から降りている赤い糸と、舞台いっぱいの赤いウェブが象徴的で美しい。
    麒麟Qがもう少し途中からハナブサをガイドしてあげたら
    観ている私たちもだんだん状況がわかって、
    彼の混乱を客観的に観る面白さが加わったのではないかという気がする。
    “わかりやすさ”はうるさいのかもしれないけれど。

    “忘れることを怖れて常に反芻する”という作者の、どこか切迫した日常を感じる舞台。
    女性陣の衣装や動きなどが洗練されていて、スタイリッシュな不条理劇のようだ。
    当日パンフで“福岡で4月に済ませた公演を1カ月熟成させて、
    熟成肉のような面持ちで焼き上げた“と作者の言う芝居は、なるほど旨みがある。

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    2013/05/10 03:31

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