河童~はたらく女の人編 公演情報 渡辺源四郎商店「河童~はたらく女の人編」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ”河童”現象
    オトナの高校演劇祭2本目は「河童~はたらく女の人編」。
    高校演劇部のために書かれたこの作品は、高校の教室が舞台だったが
    今回なべげんのオトナが演じるにあたり、舞台はオフィスになっている。
    ある日突然河童に変身してしまった女子社員をめぐって職場は大揺れ。
    「いじめ」や「差別」は子どもも大人も同じように、その社会にはびこっている。
    そして性質が悪いことも同じなら、有効な解決方法が見当たらないのも同じだ。

    ネタバレBOX

    なぜか突然河童になってしまった女子社員の扱いについて職場は意見が分かれる。
    それまでの勝手な振る舞いもあって、全く同情の余地なしとする社員もいれば
    かわいそうだから優しくしてあげてと訴える同期の社員もいる。
    部長は一生懸命みんなで受け入れましょうと説得を試みるが、社員の反応は冷たい。
    社内恋愛の相手だった課長も今やドン引きの状態だし
    あのぬるぬるした緑色の皮膚と水かきの手、そして強烈な匂いに皆辟易している。

    河童が課長との甘い思い出に浸るシーンで
    突然ピンキラの「恋の季節」を歌い出したりするのが最高に可笑しい。
    だがそんな河童の楽観的な思惑を木端微塵に打ち砕くのは
    理解し励ましてくれていた部長が、握手を拒んだことだった。
    口では何とでも言えるが、結局それか、触るのは嫌か…。

    理解者ぶっても最終的には拒否する。
    僕はみんなと違う、僕も河童になると言って近づいて来る男は、
    完全防備で直接触れないようにしている。

    そしてある朝、唯一河童と手をつないだ同期の女子社員が出社してきた時
    彼女の手は緑色で水かきがついていた…。

    アフタートークで畑澤氏が語ったように
    カフカの「変身」がベースにあって
    ある日突然いじめの対象になる、理由も原因もわからない不条理さが出発点だ。
    高校生にも理解できるよう、「変身」のあらすじを語らせるなど
    親切な試みにあふれていてとてもわかりやすくなっている。
    「1回では聞き逃すから2回言う」のがポイントだそうだが
    高校生から70代、80代までの幅広い年代層が理解し楽しめるようにするのが
    高校演劇の特長だというのが印象的だった。
    確かに、若い劇団が同年代の仲間ウケだけに満足しがちなのとは一線を画している。
    地方では尚更、そんなターゲットを絞った演劇ではやって行けないということだ。

    ストーリーは何の解決策も提示されず、
    所詮同じようにいじめられ差別される者同士しか分かり合えないのだ…
    みたいな暗澹とした終わり方をするのだが
    もしかしたら、“河童”が伝染して社員全員が河童になってしまえば
    いじめも差別も無くなるのか、という気もする。

    想像力を働かせれば何とかなるとか
    「みんな仲良く」みたいな説教で何ら変わるものではないという
    辛口のメッセージが、現役の教師から発せられるという所に説得力がある。

    自分の過去の職場で見聞きした“河童”現象をいくつか思い出して
    今さらながらひどく納得したのだったが
    たぶんこういう見る側の経験値も、オトナの演劇祭をさらに面白くするのだろう。

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    2013/05/07 00:13

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