ダムが生む壁。
ダム建設派「ダムは、治水や飲料、生活用水、電力の需給を考えると不可欠といってよい。水力発電の発電量は現在、約8%を占めています。火力に比べると低いですが、再生可能エネルギーよりは比率がある。原発事故でエネルギー事情がひっ迫する中、この数字の持つ意味は大きい」
ダム反対派「石炭や天然ガスに基づく火力発電に比べると、エネルギーの代替機能は劣る。ダムを建設するには数十年という時間が掛かるのです。
群馬県の八ッ場ダムだって、建設開始から四半世紀以上が経っている。
つまり、8%が今後、拡大していくことは考えられません」
ダム建設派「たしかに水力発電の急拡大は 非現実的だが、発電方法としてはクリーンエネルギーです。火力より二酸化炭素を排出せず、電力の使用が疎らな夜間に水を揚げることが可能、まさに日本の環境やエネルギー事情にマッチングした電力といえるのではないでしょうか?」
ダム反対派「環境省は水力発電(河川を含む)を自然エネルギーに指定していません。
個人的にも、ダム建設に伴う河川の整備は生態系を壊しますから、自然環境にマイナスだと思いますが」
住民「一旦、ダム建設が決定したなら、急いで突貫工事して頂きたい。電力とか どうでもいいんで」
ダム建設派「八ッ場ダムは、関東一帯の治水を保持するため早く建設しなければ。2009年10月に国交相が八ッ場ダムの建設中断を発表した際も、一都六県の知事が一丸となって反対しましたね。
今は国交省、県、地元住民、建設会社が一丸となり、関東の水災害を予防する八ッ場ダムの建設を進めています」
ダム反対派「ダムに沈む街は観光地という資源を失うんですよ。
自治体の観光課はダム湖畔を全面に打ち出しますが、やっぱり琵琶湖とか猪苗代湖、芦ノ湖には負けますね。
コンクリートでせき止めた、人工の大池と変わらないでしょ。
治水も 大事ですが、トータルで考えると地元にとっては経済的マイナスです。ダム建設にインセンティブが生じるなら、全国の村や町が『沈めて下さい』と懇願するはず。
退去金や建設費を合計した場合、八ッ場ダムなどの大型ダムの総経費は一兆円を超します。これ、税金ですよ?いいんですか?」
ダム建設派「ケインズ経済学には否定的な見解もありますが、穴を掘って埋めるだけでも、経済価値は あるんです。
田中康夫知事の長野県は、脱ダム宣言で生活が苦しかった。ダムを逆さまから読むと、ムダなのだといいます。
でも、そういう公共工事削減を強行して最も削れたのは県民の豊かさですよ」
ダム反対派「某政党は2009年の総選挙時、『コンクリートから人へ。』を選挙コピーとした。
ところが、政権交代後しばらくしてから建設団体の幹部が馬淵国交副大臣の待つ大臣室のドアを叩き、あっけなく そのコピーは白紙となりました。
田中康夫知事が二期目を目指した県知事戦で自公が推薦する候補に大差を付けられ落選したのは、豊かさを削られた県民より建設団体の組織票に負けたからではない
か。県知事の二期目は圧倒的に有利です」
地元住民「私たちが町長を選んでも、ダムの建設には 関係ありません。結局は、基礎的自治体というんですか、そう呼ばれる単位の行政リーダーか、県知事しか 国と交渉する力はないんです」
ダム建設派「ダムに沈む街は過疎化が深刻な地域が ほとんど です。
夕張市のような財政破綻を避け、住民の生活インフラを向上させることが住民、ひいては地域のためになるんですよ。
国や県が設備の整った代替地を提供し、補填費用を払い、ダム湖畔の観光地まで出来る。
八ッ場ダムの反対派の皆さんが次から次へ建設に手を上げてくださってる背景は、八ッ場地域の過疎化という現実があるのだ思います」
ダム反対派「ダム建設で街が沈んだら、町民は散り散りになる。
過疎化どころではなく、コミュニティの破壊ですよ。
『虹色ホタル』(東映アニメーション 2012)という映画は ご覧に なったことはあるでしょうか?ダムに沈む村を描いた、ファンタジー作品です。
ダムが沈む、それは地域の 人コミュニティ、伝統文化、お祭り、風習、自然を水に沈めること。
たとえ住民の半数が代替地に移転したとしても、日本から一つの文化地帯が消えてしまうことを意味します」
ダム建設派「代替地に郷土センターを造ったり、歴史的建造物の移転を行っている。
街のコミュニティが滅んでしまうこともありますが、代替地などは番地に配慮しています」
地元住民「町が激しく対立する。ダム建設の前に、話が来た時点からコミュニティは破壊されますよ」