月の剥がれる 公演情報 アマヤドリ「月の剥がれる」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    生きろ
    観終わって、一番頭に浮かんだのは、
    「生きろ」っていう、『もののけ姫』のキャッチコピー。

    ストーリーに派手さ、ドラマチックさ、あるいは盛り上がり
    みたいなものは薄いが、その分、
    劇場を出て、色々とああでもない、こうでもないと考えてしまう。
    それは、とてもとても良い作品だった証んんだと思うのである。

    ネタバレBOX

    話の構造としては、主に二つの時空が描かれるわけで。

    「散華(サンゲ)」という組織の活動を通して描かれる世界Aと、
    「怒り」を放棄した人間が暮らす世界B。

    おそらくBは、Aの未来であり、「散華」の事は、モノーガタリとして語り継がれている。いろんな事があった結果、私達は「怒り」を放棄したんだよ。
    その大きなきっかけは「散華」なんだよ。
    ってな具合。
    それを学校で語り聞かせる教師と、色々考える生徒たち。

    この学校でのモノーガタリから、「散華」が活動していた時代に、また学校に、
    と物語の時空はシフトしていく。

    で、さっきから何度も書いてる「散華」ってのが、
    「自国の軍隊が人を殺したらば、その数と同じだけの散華メンバーは自決しましょう」
    という理念を基に、世の争いを撲滅しようとしているわけ。
    「銃口の先に自分の家族がいると思えば、引き金を引けない」と。
    なるほどねー、と思う反面、
    引き金引かなかったら、相手に引き金引かれちゃうよ、とも思うが。
    この「散華」ってのが、わりとグローバルに活動してるっぽいので、そんな心配もいらないのかしら。

    命の抑止力、とも云うべきこの集団。
    賛否はもちろん出て来て、「散華」の解散を求めるために命張っちゃう人なんかも出て来て。
    こうなると、もう、どこまで言っても止まらない。

    この「散華」の話と「学校」の話が、いろいろ織り交ざる構成が上手い。
    そして、誰の、何が正しい!という答えが描かれないのが、また良い。

    こういう事がありました。
    こういう事になりました。

    そこで何かを考えなくちゃならないのは、私たちなんであるから、
    戯曲の中で曖昧にぼかされている部分は、観客が持ち帰れば良いと思う。

    私個人としては、
    「まだ生んでもらってないよー」的な台詞が一番響いた。
    「学校」サイドにやってきた転校生が、どうも不思議な存在感だったのは、
    ここに繋がるのかしら。

    自決したり色々ある中で、
    生まれてくるはずだった命の視点から見ると、そういう行為はどのように映るのかしらん。
    「生きてる」ものより「死んだ」ものの方が強い、とはいえ、やっぱり「生きる」が大事なのよね、と。
    劇中に度々、赤ん坊のイメージが散りばめられていたり、
    原生林を思わせる冒頭だったり、
    もう、私の頭の中が「生きろ」といったら『もののけ姫』みたいになってた事もあり、
    装置がどうにも屋久杉に見えてしまったりと、大分偏った思考になってしまったが、
    とにかく、『月の剥がれる』からは、
    死のイメージよりもむしろ、豊穣な生のイメージが感じられた。

    そんな中、引っかかるのは、
    「怒り」を永久に放棄した国の生徒たちの姿。
    「燃えてるねー」みたいな台詞が何度かあったが、
    あの台詞が、尋常ならざる事態を前に出ている台詞だとしたら、
    とても怖い。

    どっちがいいとかじゃないが、「怒り」ってのは、自然な感情なんだな、と。


    こんなに長々と色々書いた上で、結局何もまとまらないのであるが、
    この舞台を通して、色々考えさせられた、という事実は、プライスレス。

    観て、単純に感動して、涙流してスッキリ!
    みたいな作品ではないが、こういう物がもっともっと増えていくといいなぁ。
    劇場出て、景色が少し違って見えるような。

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    2013/03/07 23:09

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