初雪の味 公演情報 青☆組「初雪の味」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    【会津編】母の言葉
    【会津編】を観劇。
    “万感の思い”という言葉が浮かんだ。
    ふるさとの「家」は「家族」であり「母」である。
    これらいずれ喪うであろうものに対して、切なる寂しさを抱く人にとっては
    吉田小夏さんの台詞と役者の力の前に、涙せずにはいられないだろう。
    ”言外の思いが聴こえる台詞”が素晴らしく、
    思い出すと今も泣きたくなる。

    ネタバレBOX

    舞台に広々としたこたつのある居間が広がっている。
    横長のこたつのほかにはテレビもなく、会津の民芸品が飾られた棚がある。
    市松柄の障子戸の向こうは廊下で、上手は玄関、下手は奥の部屋へと続いている。
    八畳間の清々しい空間。

    この家には母(羽場睦子)と次男の孝二(石松太一)、それに母の実弟で
    結婚せずに役場勤めをしている晴彦(鈴木歩己)が住んでいる。
    長男賢一(和知龍範)と長女享子(小暮智美)が帰省してくる大晦日の夜を、
    4年間に渡って描く物語。
    最初の年の瀬、母は入院していて留守である。
    次の年、その次の年と母は家にいるが、最後の年は葬儀の後初めての大晦日だ。

    ふるさとの「家」は「家族」であり「母」である。
    そこでは毎年お決まりの会話が繰り返され、それが”帰省”を実感させる。

    母は次第に弱っていくが、比例するようにその言葉の重みは増していく。
    しばらく帰省しなかった長女が、その理由を話そうとして話せずにいるのを見て
    「無茶するな、でもどうしてもしたいことなら無茶すればいい」
    という意味のことを言って明るく笑う。
    享子は顔を覆って泣いたが、その包み込むような言葉に一緒に泣けてしまった。

    死後幽霊となって弟晴彦の前に現われた時は
    「旅をしないのも勇ましいことだ」と彼に告げる。
    町を出ず、結婚せずにずっと自分を支えてくれた弟の生き方を肯定する言葉に
    晴彦は涙をためて姉を見つめたが、私は涙が止まらなかった。

    初演は8年前、これが4度目の再演だというこの作品で
    羽場睦子さん1人が初演からの出演だという。
    この人の体温を感じさせる台詞が素晴らしく、
    役者が年齢を重ねることの意味を考えさせてくれる。

    弟晴彦役の鈴木歩己さん、素朴で実直な独身男の不器用さが
    そのたたずまいからにじみ出るようで秀逸。
    姉を喪い、家も買い手がついて、この人のこれからを思うと
    どれほど寂しいことだろうかと、私の方が暗澹としてしまう。

    次男孝二役の石松太一さん、「キツネの嫁入り」でも素晴らしかったが
    定職にもつかず母と同居して、何かしなければと焦っている様がリアル。
    女に振られる辺り、多分したたかな女に振りまわされたのだろうと充分想像させる。
    素直で世間ズレしていない感じがとても良かった。

    吉田小夏さんの作品には、いつも滅びゆくものに対する哀惜の念を感じる。
    部屋のしつらい、繰り返される行事、慣れ親しんだ習慣、そして方言。
    何気ない家族の会話がひどく可笑しいのは、このおっとりした会津方言の
    音やリズムのせいもあるかもしれない。
    タイトルの「初雪の味」のエピソードも、人生の苦味を感じさせて味わいがある。
    じわりと変化する照明も巧いと思う。

    アフタートークには田上パル主宰の田上豊さんが登場、
    今回方言翻訳・会津編演出を担当した「箱庭円舞曲」の古川貴義さんとこたつで対談。
    田上さんも熊本の方言で芝居を書くそうで、方言の演出についての話が面白かった。
    標準語を方言に直すと句読点の位置がずれるという。
    個人の言語感覚の根底にあるのだなあと改めて思った。

    私の2012年のラストを飾る1本は、
    言葉の美しさと台詞の妙、役者の力がそろった作品だった。
    滅びゆくものたちへの言葉、それはまさに演じては消える生の舞台の宿命にも似て
    だからこそ私たちはまた劇場へと向かうのだろう。
    儚いものを目撃するために・・・。

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    2012/12/31 05:32

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