月とスイートスポット 公演情報 ヨーロッパ企画「月とスイートスポット」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ヨーロッパ企画っぽくないけど、ヨーロッパ企画っぽい
    「えっ?」って少し思った。
    今までは、どんな世界、どんな時代にいても、そこの「ごく普通の青年」を等身大の自分たちで演じていたが、今回演じるのは「普通の青年」ではなかった。
    と、いろいろ書くとネタバレになりそう、なのでネタバレをどうぞ。

    ネタバレBOX

    オープニングで手負いのヤクザたちが舞台のデットエンドに現れてくる。
    1人は撃たれ、1人は刺され、1人は背中を切りつけられ、もう1人は特になんともない。

    最初からヨーロッパ企画らしからぬ、血の臭いがする。

    救急車を呼ぶ呼ばないから、マツキヨ、スギ薬局のくだり、そのあたりにはヨーロッパ企画っぽいところがうかがえたのだが、なんか様子が変。

    てっきり、「なーんちゃって」的な展開になるのかと思っていたら、まったくならず、片言の日本語を話す香港マフィアまで登場してくる。

    ヨーロッパ企画と言えば、ドラゴンが出てきたり、超能力が使えたり、人魚が出てきたり、土の巨人が動いたりと、どんな状況下にあっても、「日常」というものを、若者のぐだぐだしゃべりで見せてきたと思う。そのユルイ会話が楽しい舞台だった。

    しかし、今回は少しだけ違う。
    いつもだったら、ヤクザという設定であったとしても、ヤクザがぐだぐだしゃべっていて、という展開だったろうし、結局、誰もヤクザでなかったりしそうなものなのに、ヤクザだし、抗争で仲間の1人は死んでしまうし、という「えっ?」と思う展開になってくる。

    もちろん「ヨーロッパ企画らしさ」は随所にあり、未来からやって来る男は、いつもの場違いな、変な空気とともにやって来る。ぐだぐだしゃべりはあまり得意ではない(失礼)酒井善史さんのキャラにいかにもマッチした役だ。

    また、「結構大変なことになっている」のに、全体的にそーでもない雰囲気というのは、まさにヨーロッパ企画らしい。未来から来た男に対して、敵味方の変な一体感とかも。

    そして、ラストにも驚かされた。ぐだぐだした感じで終わるのかと思いきや、任侠映画(ヤクザ映画というよりは任侠)さながらの、情感たっぷりな、ラストだ。
    結構、グッと来てしまうラスト。
    こんなラストは、今までヨーロッパ企画にはなかったものではないかと思う。
    最後の最後になっても、雪見だいふくの1個はピノの3個に相当するとかしないとか、の台詞もいい。

    これって、たぶん、「ヤクザ」(たち)を主人公に設定したことから起こったことではないかと思う。詳しくは知らないが、ヨーロッパ企画は、エチュードを重ねていって作品にするようだ。
    だから、今までは、どんな世界、どんな時代にいても、その場においての「ごく普通の青年」を「今の自分たちの延長」で演じていたので、彼らは、どんな設定であったとしても自分たちの等身大な姿をそこに投影できたのではないだろうか。そして、ぐだぐだしゃべりで、「日常」が表現できていた。

    しかし、今回演じるのは「普通の青年」ではなかった。「ヤクザ」だったのだ。したがって、見たことも聞いたこともなく、ましてや体験したこともない「ヤクザ」というモノを彼らが思い描いたものが、今回の舞台の上にいたヤクザだったのだろう。

    したがって、その中で彼らが共有・共感した「ヤクザ」というモノ(世界)を演じるにあたって、彼らヤクザたちの行く末というのは、決して明るくなく、さらに、任侠というかキッズリターンというか、そういう「情感」的なところに行き着くということを選んでしまったのではないかと思うのだ。

    つまり、それが彼らの頭の中での、バーチャルな「ヤクザ」の姿だったということではないだろうか。ヤクザものだから、こんな「感傷的」な感じにラストを結んだ、ということだ。

    それは、今回うまくいっているように思える。
    結局のところ、空間が歪んで(2段階も!)というSFちっくな展開で、結構面白かったし。

    彼らが演じ、演出する人々というのは、彼らの頭の中にしかない。
    したがって、今後、こういう「日常の延長線にない役柄」が主人公になったときには、また違ったヨーロッパ企画が見られるのではないかと思う。それはそれで楽しみだ。

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    2012/12/11 07:48

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