満足度★★★
「生」への執着
10分の休憩2回を含めて4時間かかる、かなりの長編ですが、途中で退屈する間もない、密度の高い作品でした。
開演すると出演者全員が並んで登場し、長塚圭史さんの短い挨拶があってリラックスした感じで始まるものの、内容は笑う箇所がほとんどない(あっても切なさや痛々しさが伴っていました)、かなりシリアスな内容でした。
以前は売れっ子だったものの現在は困窮する画家が病気の妻の世話に身を捧げつつ、周囲の人達と生きることの意味や、生活、芸術、宗教について対話を繰り返す物語で、話の流れとしては大きな事件もない静か展開ですが、美しく力強い台詞が魅力的で引き込まれました。
大きな砂のプールの両脇に黒い椅子が5脚ずつ置かれているだけのセットの中で屋内・屋外全てのシーンが演じられ、砂の上に着物や水着で立つ姿が植田正治の有名な写真作品の様で美しかったです。
抽象的なセットと、出番でない時に両脇の椅子に座っていること以外の演技や音響に関してはリアリズムに則り、BGMも用いないストイックな演出で、違和感なくドラマに浸ることが出来ました。
主人公の生きることに対する執着心は理解は出来るのですが、性格が実直過ぎてすぐに人とぶつかってしまう様にはあまり共感出来ませんでした。
むしろ、そのような主人公に助けの手を差し伸べる、周りの人達の優しさに心を打たれました。