トロイラスとクレシダ 公演情報 彩の国さいたま芸術劇場「トロイラスとクレシダ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    シェイクスピアが指摘した「戦争の実相」は今もまったく変わらない
    中堅・若手のバランスがよく。
    台詞のやり取りが楽しめる作品。

    ネタバレBOX

    ギリシア側の将軍の妻であったヘレネという女性を、トロイが略奪したことから戦争が始まったようだ。
    しかし、そのヘレネは、略奪されたのにもかかわらず、トロイ側の王子といい関係にある。いい関係というよりはベタベタだ。
    こんな女のためにギリシャとトロイの兵士は血を流している、なんていう台詞もあるし、ギリシャ側のディオメデスは、「淫乱」とまで言って切り捨てる。
    また、トロイの王子トロイラスは、クレシダにぞっこんで、クレシダの叔父を通じて、じらされたあげくクレシダと結ばれる。
    しかし、クレシダはギリシャとの人質交換によって、ギリシャに連れて行かれてしまう。
    トロイラスは、ギリシャ軍の陣営に忍び込んで、クレシダを見つけるが、クレシダは、ギリシャ軍のディオメデスとかなりいい仲になっている。
    女の不実が2つ描かれ、さらにトロイの王の娘、予言者の女は気がふれているようだ。

    こんな女性が登場する物語である。

    こういう言い方は、シェイクスピア先生には大変失礼ではないかと思うのだが、シェイクスピアは、この戯曲を書く前に、女性に酷い目に遭わされたのではないのだろうか。心変わりをされたとか。

    さらに、ギリシャ軍では、最強の戦士と言われているアキレウスは、女の願いを聞き入れ戦場に出ようとしない。慢心もあるようだ。しかもアキレウスは、小姓をテントに引き入れて、仲むつまじい。
    それを見ているギリシャの将軍たちは、アキレウスには実力も人気もあり、正面切って何も言えず、派閥争いのような様相となっている。
    膠着状態にある、両軍一騎打ちの持ちかけもあるのだが、これも組織や政治的な駆け引きに使われている。
    また、勇者と言われたアキレウスは、トロイの勇者ヘクトルから命だけは助けてもらったのにもかかわらず、ヘクトルが武装を解いているときに大勢でかかり殺害してしまうという卑怯な振る舞いをする。

    こんな展開もあるのだから、シェイクスピアは、軍人も嫌いのようだ。ひっとしたら、女を軍人に取られてその腹いせに……、なんて邪推をしてしまうようなストーリー展開である。

    トロイ戦争が舞台なので、神話の中の話かと思えば、「アーメン」なんて台詞もあることから、そうでもないらしい。
    神話の戦争叙事詩にヒントを得て書いたのだろうか。

    台詞のやり取りや、客席通路まで十分に使った演出は、観る者を飽きさせない。
    装置、セットは背の高いヒマワリが印象的だが、意外にシンプル。
    衣装は、ギリシャとトロイがわかりやすいように、色分けがしてある。
    音楽に軽く三味線が使われているのだが、それを前面に押し出さないところや、外連味のような演出がなかったところが、台詞と演技をしっかり観てくれ、ということなのだろうか。

    いわゆるスター的な配役がないのだが(どなたかのファンの方はごめんなさい・笑)、中堅どころと若手のバランスがとてもよく、安心して観ていられる舞台になっていたと言えるだろう。

    舞台は、男性だけしか出ないオールメールとなっている。
    クレシダ役の月川悠貴さんは、声は少し太いものの、見事に女優になっていた。
    ヘレネを演じた鈴木彰紀さんも、濃厚ないやらしさ(笑)を放っていた。

    道化師テルシス役の、たかお鷹さんが、また軽妙で、芯が強さがある雰囲気が、とてもよく、さすがだと思った。彼の軽口で「戦争」の実相が見えてくる。
    また、トロイラスとクレシダの仲を取り持ったパンダロスの小野武彦さんも、いい感じで、間を取り持つのは損な役回りだ、とラストに言うのだが、これもまた、シェイクスピアの実体験から来た嘆きではないのか、なんてことを思ってしまった。

    結局、戦争は、個人の思惑のような、どうでもいいことから始まってしまう。
    そして、戦争をしている最中は、敵は必ずしも外だけにいるわけではなく、内にもいるし、組織の駆け引き、政治的な関係もあり、勝てるものであっても、なかなか勝てない。
    さらに、始まった戦争は終わらせることが難しいということもある(舞台の上ではトロイ戦争は終わらない)。

    これは、先の大戦に限らず、あらゆる戦争に当てはまってしまうことではないだろうか。
    先に「シェイクスピア先生の実体験から…」と書いてしまったが、シェイクスピアがこの戯曲を書いた16世紀ぐらいに気がつき、指摘した「戦争の実相」は、今もまったく同じである、ということなのだろう。

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    2012/08/27 07:20

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