進化とみなしていいでしょう 公演情報 クロムモリブデン「進化とみなしていいでしょう」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    混沌に作品を沈めない表現の洗練
    初日と大楽という、ちょっと偏った観劇にはなってしまいましたが、
    どちらの舞台も圧倒的でした。

    明確で奥行きと踏み出しをもった作り手の表現と、力むことなく厚く、それを支える役者たちの力量に舌を巻きました

    ネタバレBOX

    プロットはそんなに複雑なものではないのですが、
    そこに織り込まれたニュアンスの重なり方に
    互いに互いを引き立て、
    あるいは埋もれさせ、
    閉塞させていくような要素があって。

    少年の紡ぐ物語の態、
    その物語が歩み始める中で
    次第に少年のまわりの様々なものの質感が
    表れ始める。

    警察のロジックが、その言葉づかいでエッジを醸しつつ
    鮮やかに切り出されたり、
    文学の芸術性と、表現で世界を変える力と
    大衆への煽動や迎合の肌触りが
    したたかに透かし出されたり、
    心理カウンセラーが患者から導き出すものや
    制御するものから、さらに制御しえないものまでが浮かび上がったり。
    クレインの壺の表と裏を行き来するように
    エピソードたちが互いを裏打ちするなかで
    物語は広がり、重なりあい、交じり合って、
    でも混濁することなく、それぞれのエピソードの閉塞や
    その中でのキャラクターたちのあがきを浮かび上がらせていく。

    時事ネタというわけでもないのだろうけれど、
    フィーチャーされたあの宗教団体の逃亡犯が
    少年に導かれた文学表現のなかで色を変えていく姿に
    なにかスイッチが入ったような心持ちになって、
    そうすると、舞台上に表される表現の一切れずつが
    観る側にいくつものニュアンスを貫き始める。

    そこには、かつてのような、
    たとえば「世間」といった価値観の醸成はなく、
    それぞれの広がりが、交わり、時には絡まり織り上り
    互いにどこかどんつきに向かって歩いていくような
    感覚があって。
    その肌触りに違和感がなく、
    物語というか劇場の外側の「今」にしなやかに重なり息を呑む。

    終盤、キャラクターたちがかぶった
    獣の仮面の容姿や表情の、
    それぞれが自らを貫くごとに生まれた
    澱の重なりのようなものの醜悪さと観る側を浸潤していく力に驚愕。
    そして、その仮面を脱ぎ捨て自らの表情を取り戻す
    それぞれの晴れやかな表情に、
    作り手が描こうとした「進化」の質感を
    焼き付けられるように感じて。

    初日を観て、舞台に巻き込まれていく中で、
    自らのリアルな時間が身を委ねている感覚に
    新たな俯瞰が生まれて衝撃を受けたのですが、
    楽日には、さらにそこから無意識に踏み出している
    自らの感覚への気づきがあって。
    終盤、張りぼてっぽい獣の仮面が舞台の世界に置かれ、
    さらには外される。
    作品をすべて凝縮したようなその表現の洗練に
    目を見張り肌が粟立ったことでした。

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    2012/08/25 07:26

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