そこそこの写真 公演情報 各駅停車「そこそこの写真」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    淀みない台詞
    半分しか血の繋がらない姉妹たちが、父の“余命2ヶ月”を機に実家へ集合する。
    軽やかな会話の裏にある、半分だからこそ
    その絆を大切にする姉妹の切ない気持ちが伝わってくる舞台だった。
    説明的でない、台詞の質を堪能した。

    ネタバレBOX

    舞台は田舎の広い一軒家の庭である。
    素朴な木のテーブルの周りに手製の木の椅子が3脚、ベンチが一つ置かれている。
    その奥は懐かしい縁側、サッシではなく木枠のガラス戸は常に開け放たれている。
    客入れの段階から蝉の声と夏祭りの笛の音が小さく流れていた。
    駅からも遠い不便な場所だが、この庭からの眺めは素晴らしいという設定。

    槙田家の4人姉妹のうち次女が父親とふたりで住む家に
    次々と他の姉妹たちが帰ってくる。
    一度倒れた父が、いよいよ余命2ヶ月と宣告され、次女が知らせたからだ。
    好き勝手に生きてきた父のおかげで彼女たちは母親の違う姉妹である。
    父の最期を見守るため皆しばらく滞在することになる。

    なめらかに、転がるように姉妹たちの会話が弾む。
    その会話の中に4人姉妹の性格がそれぞれ豊かに描かれている。
    おっとりした長女(桜かおり)は、休みは簡単にもらえたと言うが何か秘密がありそうな様子。
    おおらかに姉妹達を迎える次女(梅澤和美)には、母親とではなくこの父と暮らす理由があった。
    三女(長沢彩乃)と四女(加藤尚美)は顔を合わせれば口喧嘩ばかりしているが
    実は誰よりも相手のことを心配していて、喧嘩はその裏返しみたいなものだ。
    次女のキャラクターがとても魅力的で安定感がある。
    彼女を軸に、父親の死をめぐって姉妹たちの過去と現在が描かれる。

    「槙田さんちのちっとも似てない4姉妹」と言われながら育った子ども時代を共有する彼女たちは、
    その絆が片方だけであるがゆえに、一層強く結びついているように見える。
    父親の再婚によって同居することになったとはいえ、
    本来なさぬ仲の4人が互いの存在を認め合うのにはそれなりの時間がかかっている。
    後半、突然の五女(小瀧万梨子)の出現に誰もが驚いたが
    それを素直に受け入れる土壌が自然に出来ているのもとても良かった。

    初日の舞台ながら、淀みなく交わされる台詞の応酬が心地よく
    縁側から出入りする緩やかな生活空間が、のどかな地方の暮らしを思わせて楽しい。
    姉妹の他に、父の民芸品作りを手伝う弟子の青年(大金賢治)や
    ただ一人結婚している四女の夫(伊藤毅)、
    民芸品ビジネスを手伝う女性(日向彩乃)らがみな個性的で
    姉妹が奏でるアンサンブルに程よい変化と客観性をもたらしている。
    “説明させる”のではなく、何気ない会話の積み重ねによって
    登場人物のキャラクターを浮き上がらせるのは“質の高い台詞”によるものだと思う。
    微妙に変化する照明も、繊細でとても良かった。

    「お父さんが死んだらみんなで写真撮ろうか」という長女の言葉の
    本当の重みがわかるのは物語の終盤になってからだ。
    その写真は、“そこそこ”どころか
    これからの彼女たちを支える大切な一枚になるに違いない。
    ラスト、次女が長女にかける「いってらっしゃい」という言葉に
    思わずほろりとさせられた。

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    2012/08/24 05:47

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