ラクト 公演情報 ブルーノプロデュース「ラクト」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    枠が滅失して
    一応、お芝居を見に行くという意識とともに会場に入ったのですが、
    その足掛かりが持てない中で
    空気が流れて、惹きこまれていく。

    舞台と客席の端境を失った中で、
    くみ上がっていく虚実に
    立ち位置を見いだせないままに、
    でも、通常の演劇のフォーマットでは感じ得ないものが
    流れ込んできて、
    深く揺さぶられてしまいました。

    ネタバレBOX

    演者との距離の近さということでいえば、
    昨今のお芝居には同様のものがけっこうある。
    カフェ公演などだと、本当に近い位置に
    物語が展開していく。
    でも、この公演には、
    物理的な距離による空間の一体感に加えて
    物語としての枠が滅失していて。
    明らかに舞台上の3人を観ているのですが、
    それらを受け止めて対峙するための
    物語としての骨組みや端境が降りてこない。
    枠がないので、
    空気は移ろい、色は日和見のごとく変化して
    観る側もあるがごとくに流されていく。

    でも、それが少しもバラけて感じられないのですよ。
    演じる側に場にあるに足りる強さがあって
    互いが互いの引力に委ねつつ
    自らのロールを剥ぎだし空気を作り重ねていく。
    その一瞬ごとが、息をのむほどにビビッドで
    重なりが混濁せずエッジを持ち、
    観る側を虚実の端境に置き、
    刹那達の細微な揺らぎに染めてしまうのです。
    高揚に背景がなくても、そこに理が生まれ
    沈黙に言葉がなくても、醸される空気が観る側の心を揺らしていく。
    語ること、次第に溢れていくもの、そしてそれを受け取る姿、
    そこには枠に頼ることなく、
    役者たちの作る求心力で
    観る側を場に繋ぎ、見つめ続けさせる強さがあって。
    役者たちが自らを置くその空気に
    同じようにその空気に身をゆだねてしまう。

    突然、場の出来事を嘘と言う。
    わかっていて、なのに驚き、
    そのことで、振り子のようによどみから抜けて
    更に世界に閉じ込められてしまう。
    そして、終演後には、
    それが川に投げられた救命浮輪のように感じられました。
    もし、その浮輪につかまることがなければ
    終演後にも、
    虚実の端境から抜け出せなかったかもしれない。

    役者たちそれぞれの想いに染まりつつ、
    時間の概念すら失い、、
    やがて、唐突に役者たちが退出し、
    流れがあっけなくその部屋を離れ、
    終演となります。
    一呼吸おいて、突然まわり始めたシーリングファンに
    押し出されるように我に返る。

    観終わって、これが何かと問われるならば、、
    純然たる演劇なのだと思うのです。
    でも、残る感覚というか、
    記憶としておかれる場所が
    常とは明らかに違っていて。
    もっといえば、
    残っているものは記憶とは別の、
    感情側に差し込まれた何かのような気がして。

    自らが持った感覚が、
    演じた役者たちの印象とともに、
    終演後もずっと消えることがありませんでした。

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    2012/08/18 10:41

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