進化とみなしていいでしょう 公演情報 クロムモリブデン「進化とみなしていいでしょう」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    今、ここにあるのは、進化なのか病なのか
    治すべきか受け入れるべきか。
    いくつもの「軸」が舞台の上で交錯し、ラストになだれ込む。
    ああ、カタルシス!!

    ネタバレBOX

    脚本がうまい。
    オウム逃亡犯と匿った女性を思い出させるような2人、感情を表現できなかったり、相手の気持ちを慮ることができない病、虚構と現実、そんなエレメンツがきれいにはまっていく。

    この物語は、自分の頭の中の出来事であるという、秋男と弓の2人が登場するのだが、この登場のさせ方がうまいのだ。
    最初に秋男を登場させ、秋男が日記として書き始めた小説の中に出てくるのが、弓である、と観客に思わせるのだ。弓の登場も、最初は秋男との関係がわからないまま、その端緒が徐々に見えて来る。
    そして、弓が「自分の頭の中の出来事だ」と主張するあたりから、観客の確信はぐらついてくる。
    演劇ならではの仕掛けだ。

    これには参った。どっちがどうなのか? と思い始め、舞台を観る。

    そんなこととは関係なしに、彼らの頭の中のストーリーはさらに進む。
    進んだところで、オウム逃亡犯を彷彿とさせる2人がぐいぐいと飛び出してくる。

    そうした展開に、さらに今ここにある「病巣」をクローズアップしてくる。

    例えば、「他人との関係」、あるいはそれを「病」として「安心」すること。
    感情を表すことがうまくできなかったり、相手の蚊持ちをくみ取ることができなかったりということは、「病」であるという。
    「病」というのは、「病名」が付いてから生まれるものである、という。それまで(同様の症状があったとしても)存在しなかった「病気」が、「名前」が付くことによって出来ていく不思議さ。
    逆に言えば、すべての人がなんらかの障害を抱えていて、それにそれぞれに名前が付けられていく。
    「病気だ」ということで、本人も周囲も「安心」できる。
    「居場所」が確保されたと言っていい。社会の一員になれた、というのは言い過ぎか。

    この舞台の世界では、23区ごとの「症候群」があるらしい。
    そして、それらは、相手の気持ちが読めないので、会話が成立しないため、相手にアプローチして聞き出すという行為が必要になることから、逆に「進化とみなしていい」らしいのだ。
    ここはこの舞台のひとつのキーとなる(タイトルにもなってるしね)。

    「物語を作っていくこと(虚構を語ること)」で、その病を治していくというところも面白い。ニセ村上春樹というニセモノが、秋男を救っていく。その秋男だって、弓の生み出した虚構なのかもしれないという面白さ。

    また、サリン事件の逃亡者たちを彷彿とさせる男女は、自らを隠すために、感情を押し殺して生活してきたが、徐々に感動できるDVDを借りてくるようになってきて、「普通」の生活に戻っていくという、「症候群」な人々との対比。
    そして、彼らが、世の中に感じる違和感。

    さらに、今の「病」を「治そう」とする秋男に対して、今の「病」を受け入れて、仕事に活かしていく警官の2人。それを少し後悔している上司。さらにそれが「進化」と言われた弓。

    このような、いくつもの対比させる軸が、舞台の上に交錯し、展開していくストーリーと細かい世界観に翻弄されて、本当に面白い。

    秋男と弓のどちらの物語なのか、と思いつつも、ラスト間近では、逃亡犯2人がクローズアップされる。これには「ここか」、そして「やられたか」と思った。

    秋男を演じた奥田ワレタさんの壊れてしまいそうな存在感が、徐々に大きくなっていくさま、弓を演じた渡邊とかげさんの存在感、そして、ニセ村上春樹を演じた久保貫太郎さんの、まくし立てる胡散臭さは最高だった。警官を演じた、幸田尚子さんと、森下亮さんの、キレのいい訛り台詞と演技もよかった。2人の上司を演じた手塚けだまさんの苦み走った(ように見せようとしている)演技はツボだった。

    オウムからオリンピックまでを、どんどん盛り込んでいく面白さ。
    「お寿司とビザの無気力試合」は名台詞!
    あと「やれやれ」も(笑)。

    それと、毎回思うのだが、今回も、衣装のPOPさ、そして音楽の使い方、さらにシンプルだが効果的なセットの設計、これらが素晴らしい。
    久々に聞いたクラフトワークが心地良く響いてたし。

    そう言えば、村上春樹は『アンダーグラウンド』とオウムに接点があるのだが、ここから登場人物に村上春樹を選んだのかな?

    そして、ラストである。
    「本当に進化なのか?」の答えがラストに、大音量の音楽とともに、ショッキングな形で観客を襲う。
    ビンビンと響く、大音量の音楽に騙されつつも(笑)、突き抜けるラスト。

    この、意識の「ジャンプ率」の高さにバンザイだ!

    0

    2012/08/08 07:13

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大