暗いところからやってくる 公演情報 KAAT神奈川芸術劇場「暗いところからやってくる」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    とってもラブリーなイキウメ(笑)
    イキウメじゃないけどイキウメ、だけどやっぱりちょっとだけ違うかな。

    ネタバレBOX

    「こどもとおとなのためのお芝居」と銘打っているとおりに、こどもにはこどもの感覚で面白く、おとなにはおとなの感覚できちんと面白い。

    特に、恐いシーンが近づきそうになると、手で耳を塞ぎ、しっかりと目までつぶったり、お母さんにしがみついたり、台詞の一部をそっと口に出して、ふふふと笑ったり、にこにことお母さんの顔を見上げたりと、そんなこどもたちの姿が見えたり聞こえたりするところまで含めて、『暗いところからやってくる』の舞台は形作られる。

    観客が参加するという形式になっているのではないのだが、観客が、特にこどもたちがいないと成立しない舞台なのかもしれない。

    こどもたちの反応と舞台内容できゅーんとなってしまう舞台だ。

    前川さんが「子供の僕には、自分を子供扱いしないその作風が、他の子供向け作品よりも信用できる感じがした」と自分のウルトラセブンでの経験を述べているように、この作品も、それがある。

    暗いところが恐い、というラインから始まり、主人公の輝夫くんの気持ちになったり、暗いところにいる人たちは誰なんだろうと思ったり、自分のこどものときに思いを馳せたり、あるいは自分のこどものことを思ったりと、そんな観客それぞれが理解できる範囲で、面白くなっていると思う。
    それは、どういう見方をしても大丈夫、と言っているようで、そういう見方で十分に面白いのだ。

    おとなから観ても、暗いところにいる人たちが、実は光ある私たちのいる場所に出て来る前(舞台の中では「昇進」と言っていた)にいる人たちなのだ、とわかることで、また少しきゅーんとなったりするのだ。特にこども連れのお母さんたちには、そういう設定はたまらないだろう。恐いとしがみつく我が子を腕に抱きながらだから。

    そこに「家族」の姿を観るとしても、とてもいい作品だと思う。

    子どもたちにとっても、暗いところにいる人たちが「いつも観ている」というのは、恐かったり、もの凄く好奇心をそそられたりするのだろう。

    そして、最も凄いと思うのは、就学前のこどもたちが大勢いたのだが、70分もの時間、騒がす、飽きずに、舞台に集中して観ていたことだ。舞台のその力は素晴らしい。

    こどもの頃だけでなく、今だって、家が軋む音にどきりとしたり、何かの気配を感じて、劇中の輝夫くんのように、風で膨らんだカーテンを蹴ってみたりする。

    そういう誰にでもありそうな細かいディテールが随所にあり、本当に楽しめた。

    脚本もだが、演出もいいなぁと思う。もちろん役者も。

    イキウメが観劇後に残すトゲのようなもの(イタさが伴うような)は、なかったが、トゲではなくて、闇の怖さとか闇への好奇心とか、家族とか、そんな要素たちで、心の柔らかいところを、くっと突っつかれた感じ。

    役者は、例えば、お姉さん(伊勢佳世さん)はお姉さんらしく、お母さん(木下三枝子さん)も優しいお母さんらしく、全員がとても丁寧で共感が持てた。特に輝夫くんを演じた大窪人衛さんは、いつものイキウメだと、なんひねた感じがあるのだけど、この舞台での輝夫くんの、切実に訴える姿などは、泣けそうななるほどいい感じ。

    0

    2012/07/29 09:02

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大