ポンポン お前の自意識に小刻みに振りたくなるんだ ポンポン 公演情報 ハイバイ「ポンポン お前の自意識に小刻みに振りたくなるんだ ポンポン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    みんなプライドで生きている
    荒川良々ちょっと上手すぎの感もあるが、ガタイのいい12歳二人が
    繊細な小学生のプライドを見せて泣かせる。
    意地悪でやがて優しきハイバイの人間観察。

    ネタバレBOX

    ゲームがつながれたテレビと時折出てくる丸いちゃぶ台以外何もない部屋。
    開演前は漫画やシャツが散らばった雑多な感じだったが
    まもなくお母さんに叱られた欽一と吾郎によってあっという間に片付いた後は
    人が変わるだけでこの部屋が2軒の家の居間になり、芝居の稽古場になる。
    ドアノブだけの“ハイバイドア”がひとつついている。

    友達の欽一とお金を出し合って新しいファミコンを買いに行った吾郎(荒川良々)は
    店員(岩井秀人)に丸め込まれ反撃できない性格も災いして、
    欲しくもないものを買わされて来てしまった。
    おまけにその欽一(平原テツ)の家でおしっこを漏らしてしまう。
    それも居間で・・・。
    ちぎれそうなプライドを抱えて帰る吾郎、周囲の大人が彼に温かくて
    見ている私がちょっと安心。

    大人も子供も「察すること」を求められている。
    うまく言えないけど察してくれよ、これじゃない、違うんだよ・・・。
    察してくれよ、たまにはぱあっと飲んで金使いたいんだよ・・・。
    察してくれよ、おしっこ漏れそうなんだよー!
    察してくれよ、これがダメだとどうしていいかわかんないんだよー!

    「察してくれない」ことに対する逆ギレという面倒なことも起こる。
    演劇教室主催の橋本(岩井秀人)が、
    別の解釈を提案する劇団員(欽一の母・川面千晶)を罵倒するのは、
    自分の意見が無条件に一番と評価されないことに対して
    どう対応したらいいのかわからないほど混乱するからだ。
    “察してくれる”人の中でだけ評価されてきた人間の小さなプライドの崩壊。
    相変わらずこういう”混乱をごまかそうとして屁理屈こねながら崩れていく”男を
    岩井さんは上手いんだよなあ。
    強気な言葉で攻撃しながら、実は必死に守りに入っているのがわかる。

    日本的な「察する文化」のおかげで、言葉なんか要らないくらいにスムースに進むこともある。
    演劇教室の場面で一番面白かったのは、
    「台詞なし、動きだけでコンビニで買い物する場面」。
    ゆっくりと舞うような動きでレジ袋に商品を入れ、
    それを受け取って店を出る・・・。
    この間客席から笑い声が途切れない。
    ”観客を育てる”とは言い得て妙、客が全てを察してくれれば
    どんな芝居も成り立つわけだ。

    首の皮一枚みたいなプライドを修復するにはどうしたらいいのだろう?
    吾郎の場合は、欽一が来て思いがけない方法で一気に修復させる。
    吾郎の家の居間で、欽一はおしっこを漏らしたのだ。
    これで同じだ、という究極の“恥の共有”。
    ”察する”なんて精神論を超えた本能的な共有だと思う。
    自分だけじゃないんだ、という思いが人を救う現場に立ち会ったような感じがした。

    荒川良々さんの“大人っぽい”12歳が秀逸。
    キャラにハマりすぎ、上手すぎなほど。
    平原テツさんの欽一も好きだなあ。
    ガタイのいい、あまり考えていないような欽一が、
    実は吾郎の気持ちを一番思いやっている。
    ラストその優しさあふれる長いお漏らしがとても感動的だった。(暗転してもまだじょーと音がしてた)

    安藤聖さんのへなへなしない強い母ちゃんが美しくて良い。
    言い訳と屁理屈の挙句逆ギレして逃れようとする夫(岩瀬亮)に、
    胸ぐら掴んで最後通告するところ。
    「実家の父は帰って来いって言ってる。あたし吾郎連れて出て行くからね」
    あんまり「わかってくれよぅ」と甘えるとこうなるという感じ(笑)

    その後父と子とがご飯を食べながら交わす会話がおかしい。
    父に「(母を)好きなだけじゃダメなんじゃない?」と言う12歳の吾郎。
    おしっこ漏らすくせにこういうこと言うから笑っちゃう。
    岩瀬亮さんの父親が、ここでは素直に小学生の言葉に耳を傾けて微笑ましい。

    この場面、珍しく本物のご飯と味噌汁、唐揚げみたいなおかずが並んで、
    食べながらのリアルな会話に、“飯食いドラマ”のリアリティを思い出した。
    上手い人は、食べながら台詞の間を自然に調節できるんだなあと感心。

    大人も子供もプライドに支えられて生きている。
    プライドを守るために働き、閉じこもり、逆ギレし、いじめ、神経をすり減らす。
    大人にはもう、欽一のような修復はできないことかもしれない。
    こうして見ると、このフライヤーの図は深いなあと改めて眺めてしまった。

    さて、私に恥を共有する“おもらしの友”はいるか──。

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    2012/07/28 11:22

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