「宇宙みそ汁」 「無秩序な小さな水のコメディー」 公演情報 燐光群「「宇宙みそ汁」 「無秩序な小さな水のコメディー」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「詩」が「劇」になるとき
    私にとって初めての燐光群を梅ヶ丘BOXで観る。
    「宇宙みそ汁」は詩人清中愛子さんの詩や手記、メールなどを、
    坂手洋二氏が一切書き加えることなく編成して劇に仕立てたというものである。
    その結果、戯曲として書かれたものではなかったにもかかわらず
    「詩」が自然に伸びをして四肢を広げたような世界が現われた。
     

    ネタバレBOX

    「地球に向かってただ一人 パラシュートで降り立っていく」
    と小さな台に乗った役者がバッとエプロンを広げる冒頭のシーン。
    主婦の孤独な日常を俯瞰する象徴的なオープニングだ。
    孤独なのに、力強くて明るい。

    清中愛子の視点は、台所の定点カメラが次第にひき上げられて
    東京を、日本を、地球を俯瞰してどんどんヒキの映像になっていくように
    そしてまた台所へと戻っていくように伸縮自在だ。
    彼女は自分の感情よりも、息子を含めた日常を寄ったり引いたりしながら眺めている。
    社会から切り離された親子2人だけの孤独と濃密な時間を
    シャカリキになって働く一方で、距離を持って眺める視点を感じる。

    「詩」が、朗読ではなく戯曲として成立するのだという新しい発見。
    それはもともと「詩」が厳選された言葉=台詞で出来ているからだろうと思う。
    清中愛子の言葉は極めて具体的に自分の日常を語り、
    聴く者の想像力を大いにかき立てる。
    ただし坂手氏による、詩人の手紙やメール等の散文を加筆せずに織り込むという
    過程があって初めて実現するもので、この繊細な構成作業が素晴らしい。
    この作業の結果、朗読ではない三次元の劇として立ち上がった。

    役者の動きも、リーディングによく見られる“控えめな動作”ではなく
    “言葉から派生した”動きが、きちんと“振り付け”されているから説得力がある。

    もうひとつの「無秩序な小さな水のコメディー」は
    「入り海のクジラ」「利き水」「じらいくじら」の、水にまつわる3小品である。
    くじらの「頭」「肉」「骨」に分かれた3人の姿勢など演出の工夫が面白く
    短いながら戦争や原発問題の本質を突く内容となっている。

    詩の言葉が持つリズムと勢いを再現した役者陣は皆熱演で
    画期的な本を豊かな表現力で忠実に再現している。
    年配の役者さんの言葉に安定感と味わいがあって劇団の個性を感じる。

    公演のあとのアフタートークで、20周年を迎えた
    梅ヶ丘BOXの歩みや思い出などが語られた。
    靴を脱いで上がるこの小さなアトリエに
    役者さんの創意工夫と制作のプロセスが沁みついていることが伝わってきて、
    改めてしみじみとアトリエ空間をながめた。。

    熱い出汁に落とした味噌の塊が次第にほどけていく感じにも似て
    「詩」の世界がゆるりと四方に広がり始める。
    この場に立ち会えたことをとても幸福に思う。
    私もエプロン広げて、みそ汁の鍋を高みからのぞき込みながら──。

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    2012/07/20 04:59

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