12人のそりゃ恐ろしい日本人 2012 公演情報 劇団チャリT企画「12人のそりゃ恐ろしい日本人 2012」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    全部のっけ
    四畳半に現代日本の問題点を全部盛りにした感じの“ふざけた社会派”は
    ふざけていちゃあ出来ないようなマジな問いかけを投げて来た。
    受け止める私たちに心の用意はできていたか?

    ネタバレBOX

    ほとんどの登場人物には名前がない。
    女子高を舞台に生徒同士が呼び合う場面以外は
    「大家さん」「先輩」「隣の女」「下の女」「裁判長」・・・これで十分なことに愕然とする。
    私たちは名前など無くても全然オッケーな社会に生きているのだ。
    逮捕されテレビに出て初めて、個人の名前は連呼される。

    その連呼された「林眞須美」被告の裁判員裁判で、
    最後は聞き入れられなかった少数派意見の男の部屋が主な舞台だ。

    彼の部屋には職探し中の友人が転がり込み、
    裁判員仲間が「やっぱり納得いかないですよね?!」と押し掛けて来る。
    押し入れを開けてもトイレを開けても、絞首刑になる被告の姿が現われて
    男はゲーゲー吐いてばかり、誠に気の毒な状況だ。

    マスコミの報道があらゆる判断を主導するこの国の危うさ。
    「裁判は仇討。被害者の家族に代わって無念を晴らす」という国民性。
    ウルトラセブンの歌にのって「♪ 死刑!死刑!死刑!…」と
    元気よく歌って踊る日本国民は確かに異様に映る。
    だがこれが私たち小市民の現実ではないか?
    「ほんとかな~」と言いつつ「テレビで言ってた」「新聞に出てた」と
    報道の流れにのって私たちはぞろぞろと巨大な船に乗り込む。
    何たって「事件は現場で起きているんじゃない、会議室で作られているんだ!」から。

    松本サリン事件の被害者を「犯人」として吊るし上げた日本国民である。
    冤罪のひとつやふたつ“誤差のうち”だ。
    忙しいんだよ、次から次へと事件は起こるし人は死ぬし、
    隣にテロリストが住んで、お札が葉っぱになって、もう大変なんスから。
    今月は「毒物カレー事件強化月間」だぁ!
    というわけで、報道陣も一億総コメンテーターの小市民も多数決を頼みに言いたい放題、
    ”素人の感覚が大切”なはずの裁判員制度だって、
    検察側の手慣れた誘導で素人裁判員はどんどん引っ張られていく。
    この辺りの描写が”テレビの前のあなた”を如実に表していて面白い。

    もし自分が間違っていて、これが冤罪だったら…という恐怖心を
    人はねじ伏せて勢いよく「有罪」に挙手をする。

    男(熊野善啓)の、周囲からいいように振りまわされる優柔不断ぶりがリアル。
    しみったれた生活感あふれるセットとドラマチックな照明も素晴らしい。
    ちょっと四畳半に詰め込み過ぎかと思うほどの“全部のっけ”状態で舞台は回る。
    人種差別、DV、テロ、イラク問題、女生徒と教師、孤独死、ホームレス・・・。
    劇団初見の私は想像するしかないが、
    80分でエピソードを絞った初期のバージョンも観てみたい気がする。

    シュールな展開に戸惑いがちな後半、力技で現実に引き戻し問いかけて来るのは
    顔も体型も激似の林眞須美被告(下中裕子)だ。(作っているのかもしれないけど)
    日常生活に支障はないかしらと、余計な心配をしたくなるほど似てる。
    彼女が「やってません!」と叫ぶ声を、私たちはどこまで検証しただろうか。

    主宰の楢原拓氏は、“茶番コメディ”と言っているが
    それを真に受けて口開けてぽけっと観ていると、家に帰ってから絞首刑が夢に出そう。
    こういうテーマをエンタメとして成立させようという試みは貴重だと思う。
    チャリT企画、これからもがつんとやってください。

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    2012/07/01 03:59

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