さらば、豚 公演情報 流山児★事務所「さらば、豚」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ダークなアングラファンタジー
    閉ざされた空間で生命の危機にさらされながら
    男たちの夢と現実がぶつかり合う、アングラの匂い立ちこめる舞台だった。
    男度100%の芝居は流山児☆事務所の得意とする分野だが、
    男の弱さと哀しさがにじんでいて、しかもエンタメなところが魅力だ。

    ネタバレBOX

    男が一人、九州の廃坑となった炭鉱の中で語り始める。
    「全ては3日前に始まった…」

    彼は桜組の下っ端ヤクザの郷屋(ごうや・若杉宏二)。
    炭鉱が無くなって今やヤクザの収入源は豚を飼うことだ。
    上からの命令でもう5年も仲間と豚の世話をしている。
    その66頭の豚が、ある日突然姿を消した。
    これはやはり豚を飼っていて、敵対する梅組の連中に違いないと考えた郷屋たち5人は、唯一考えられる場所、12年前の忌まわしい廃坑へと豚を探しに行く。
    しかしそこで彼らを待ち受けていたのは、同じように忽然と消えた豚を探しに来た梅組のヤクザ達4人だった…。

    炭鉱の中で「炭坑節」を歌うと必ず落盤事故が起きるという言い伝えが効いている。
    武器を持たなければ不安、誰も信用しない、生き残るためには平気で裏切るというヤクザの習性が、閉ざされた空間の中で疑心暗鬼を増幅させていく。
    その結果恐怖にかられたヤクザ達は次々と殺し合い、生き残った者はある究極の選択を迫られる。

    上手と下手にひとつずつ、2方に伸びる細い坑道がその先にあるものを想像させて不気味。照明の変化で時間と、夢と現実の境界を行き来するのもとても良かった。

    若杉宏二さん演じる郷屋が登場人物を紹介し、状況解説もはさむのだが
    これがとても判り易く、ヤクザの個性やその後の行動を納得するのに助けになった。
    似たような強面のヤクザにもバックグラウンドがあり、
    それぞれの死にざまにつながるから情報が生きて来る。

    今回の塩野谷さんは信用金庫の経理担当者からヤクザに転職した変わり種を演じた。
    これが、性根がヤクザなのは実はこの経理マンではないかという行動に出る。
    びくびくしていたくせに狂気に走るところは、やはり塩野谷さんらしさ全開。

    狼と呼ばれる老兵(本多一夫)が彼らに武器を与え、殺し合いをさせたり
    「炭坑節」を歌って落盤事故を引き起こすように仕向けたり
    幻のような存在ながらヤクザ達を操るというのも、因果応報を感じさせて存在感あり。

    いつの世にも時代と組織に翻弄される男の姿は同じ、
    足を洗って生き方を変えたいと思いながらまた1日が過ぎて行くのも同じ。
    家族の気配薄く、夢ばかり食べている彼らに今の時代が重なる。

    郷屋は結局死んだのか、生き残ったのか・・・?
    あの“落盤事故の時に空を見るための窓”は永遠に開かないだろう。
    「豚は夢をみる」と老兵は言って消えた。
    「人はもっと夢をみる」だろう。
    その哀しみが強く残る舞台だった。

    これが女だったらどうなっただろう。
    同じように殺し合うんだろうか?もっと残酷か…。
    ふとそんなことも考えた。

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    2012/06/10 23:54

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