ことほぐ 公演情報 intro「ことほぐ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「ここにいる」ということ
    ブラックボックスの中に楚々と立つ電信柱を見た瞬間、「あぁ、北海道まで来てよかった」と思いました。円形にとられた演技スペースの周囲にはバス停や自転車が置かれ、その上を電線が走っています。

物語の主人公は3人の祝福されない妊婦たち。頼れる男もいなければ、水道代さえない彼女らは、悪態をつきながらも、なんとか身を寄せ合って生きています。

    ネタバレBOX

    一見閉じた設定のようですが、舞台装置と同じく、彼女たちもまた、外部との繫がりを完全に絶つことはできないし、またそうした隣人や兄弟とのかかわり(それはけっこうハチャメチャなものだったりもするのですが)を通じて、自ら「ことほぐ」ことに近づいていくわけです。水道も止まった、ある夏の1日の終わり。三人に小さな転機が訪れようとしたその時、遠くに聞こえていた「北海盆踊り」の節が、子供バージョンから大人バージョンに変わり、やがて太鼓の音が劇場中に鳴り響きます。それはこの作品が、作り手たちの生きる場所、現実のコミュニティへと接続される、感動的な瞬間でした。

    誰に向けて何を届けたいのか——。この作品とカンパニーは、普遍的なテーマを扱いながら、自らの拠って立つ場所をしっかり見据えていると感じました。でも、考えてみれば、個人の創造的営みを、集団で共有し、さらに社会の中におく演劇は、はじめからそうした普遍性と固有性のあいだにあるものなのでしょう。輪になって一緒に踊っていたはずの登場人物たちが次々といなくなり、家主の妊婦一人が踊る、そのシルエットで、芝居は幕を閉じました。

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    2012/06/10 11:31

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