首無し乙女は万事快調と笑ふ! 公演情報 ポップンマッシュルームチキン野郎「首無し乙女は万事快調と笑ふ!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    号泣を伴うハイテンションブラックコメディ
    赤地に人形の首も印象的なフライヤーと、何たってこの劇団名にこのタイトル。
    さぞかしイカレた笑いがさく裂するのかと思いきや、なんだよ、これ。
    あんなハイテンションで騒ぐから、もっと軽い芝居だと思ってたのに
    すごい骨太な話じゃないか、と泣き泣き思った。

    ネタバレBOX

    冒頭、映画のオープニングを思わせるアニメーションがとても良く出来ている。
    オスカーが鞄を持ってドイツの街並みを歩く。
    (鞄の中には電源につながれたエマの首が入っている)
    エマとオスカー、二人がそれぞれ闘いながら寄り添っていることを象徴するような映像だ。
    このクオリティの高さに期待が高まる。

    なぜオスカーはエマを生かすことにここまで執着するのか。
    発見された記憶を失った男は本当にエマの夫なのか。
    オスカーに感謝し、彼が創りだした若干中途半端な改造人間(?)っぽい仲間たちと
    賑やかに前向きに暮らしながらも、エマを取り巻く謎は深い。

    そしてついに明らかになった衝撃の事実。
    それを知ってエマはある決断を下す・・・。

    テンポ良く場面が切り替わり、2時間近くを飽きさせない。
    過去と現在、失われた記憶を鮮やかに浮かび上がらせる照明がとても繊細で美しい。

    扱う素材が悲惨かつシリアスなので、枝葉の部分でこれくらい遊ばないと
    “戦争ドキュメンタリー”みたいに暗くなってしまうのかもしれない。
    エマが、記憶を失い顔の判別もつかないほど傷つけられた夫と再会した時の言葉、
    オスカーが不本意ながら仲間を撃った時の自責の念、
    いつも笑っていたエマが、最後にひとり箱の中で大泣きする声、
    そして自分を許せないオスカーがもがきながら終わるラスト・・・。
    チキン野郎にここまで泣かされるとは思いもよらなかった。
    全てはこのラストの為にあったかと思わずにいられない。

    ほとんど首だけで芝居していたエマ役の小岩崎小恵さんがいい。
    最初は優しい夫に比べて大雑把な感じに見えたが
    箱の中で自由を奪われたかたちでありながら、
    表情と台詞に説得力があって素晴らしい。
    オスカー役の竹岡常吉さん、ただの親切な科学者が
    次第に苦悩する姿を見せ始めた辺りから、がぜん奥行きが出て良かった。
    エマの夫カミル(野口オリジナル/堀晃大)が収容所で痛めつけられながら
    オスカーに合図を送る時、ほとんど叫びたくなるほど悲しかった。

    ちょっと途中のギャグが気になったが、レッドゾーンすれすれを行きたいからだろうか?
    あえてタブーに触れるような笑いを目指さなくても
    この脚本の力があれば硬軟の落差は十分に出る。
    戦争やナチスを批判する目を持ちながら弱者を嗤うのは矛盾するような気がした。
    上品になる必要はないが、笑いの方向性は選んだ方が効果的だと思う。
    あ、それと「首無し乙女」じゃなくて「首だけ乙女」ですよね(笑)

    吹原幸太という人はすごい話を書くなあ。
    戦争の理不尽さをこれでもかと見せつけておいて
    それでも尚生きる人間の悲しいまでの生命力を描いている。
    戦争は人に“理不尽を受け容れること”を強要する。
    受け容れなければ生きて行けない。
    エマもオスカーもカミルも、半端な改造人間達も全てを受け容れていく。
    私はあの終わり方がとても好きだ。

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    2012/05/16 22:58

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