翔べ!原子力ロボむつ 公演情報 渡辺源四郎商店「翔べ!原子力ロボむつ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    演劇の力
    大好きななべげんの舞台、それもこのタイトル。
    興味津々で出かけるとスズナリはぎっしり、
    次々と補助席が設けられる盛況ぶりで年代層も幅広い。
    設定の妙と完成度の高い役者陣の演技に
    面白うてやがて哀しき日本の行く末を深く考えさせる素晴らしい舞台だった。

    ネタバレBOX

    原発を想像させるシンプルなセット、ジャージかスポーツウェアの衣装。
    衣装らしい衣装はロボット1号2号の二人だけだ。

    高レベル放射性廃棄物の最終処分場を町に誘致する、と決めた36歳の若き町長。
    物語は、100年後の状態を見届けるために自ら冷凍睡眠を申し出た町長エイスケが、
    ついに解凍され、予定より長い1000年の眠りから目覚めたところから始まる。

    畑澤さんが提示するのはひとつの「日本の未来像」だ。
    荒唐無稽な話がリアリティを持って迫ってくるのは
    “ありそうなこと”だからに他ならない。
    政治家や企業が言いそうな、やらかしそうなことが起こり、
    マジでこれに近いことが起きるんじゃないかと思わせる世界観がある。

    畑澤組の出演者はいつも完成度が高いけれど、
    今回の台詞の間といいタイミングといい抜群の冴え。
    中でもロボット1号2号のコンビは素晴らしい存在感を見せた。
    その完璧な台詞のハモリは、始め音声をデジタル処理しているのかと思ったほどだ。

    タイトルにある「原子力ロボむつ」の哀しみは、人類の失敗を象徴している。
    宮崎駿のアニメに出てくる「巨神兵」のようなイメージを想像したが
    この「むつ」とロボット1号2号が、皮肉なことに
    エイスケを最後まで支え、人類の失敗と闘う原動力となる。

    設定が可笑しくて、登場人物が名乗りを上げる度に客席から笑いが起こる。
    それに津軽弁。
    この温かくユーモラスな響きが、時に問題を地方に丸投げしている東京に鋭い疑問を突き付ける。
    方言の使い方が上手いなあと思う。
    全体をほんわり見せて、こちらが油断したところを棘でちくっと刺してくる感じ。

    ロボット1号2号の機械的な台詞に感情が乗って来るあたりが巧みで
    この二人、若いのに凄い役者さんだと思う。
    1号2号が狂言回し的な役割を担ったのも功を奏している。

    私は”ぷよぷよ”の北魚昭次郎さんが(特にその声と腹が)好きだが、
    善人も癖のある人もまるで地であるかのように深く演じるところが魅力的だ。

    エイスケ役の山田百次さん、素朴だが使命感溢れる男の
    孤独と情熱を力まずに演じていて素晴らしい。
    ロボむつとエイスケは表裏一体なのではないかと言う気がする。

    畑澤さん、あなたが青森から発信し、東京で訴えかけるこの芝居に
    小難しい理屈や声高な主義主張はない。
    でもたくさん笑ったあとでこんなに泣けるのはなぜなんだろう?
    孤独なエイスケの最後の記憶が幸せなものであったことが唯一の救いだ。
    これでいいのか?
    いいわけないだろ?
    その率直な問いかけに、観る者は立ち止まって考えざるを得ない。
    演劇の力とはこういうものなのだと、改めて強く意識した舞台だった。

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    2012/05/05 04:02

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