満足度★★★★★
骨太でありながら・・・
本作を拝見するのは二度目だ。
骨太でありながら、どうして此れほど繊細なのか?
シンプルでいて、実は難しい。
「彷徨う翼」はそんな作品だ。
数ある特攻隊の舞台作品の中で、
これほど難しい作品はないのではないか?
内容はシンプルで、とても分かり易い。
なにが難しいのか?
特攻隊賛美でもなく、戦争反対を声高に叫ぶのではなく、
特攻隊員達を我々と同じ日本人として、
その生き様を淡々と描いて行く。
その姿を通して感じる、
かつての日本人の美しい「心」は清々しく、熱く、
荘厳であった。
サブタイトルの本居宣長の和歌、
「敷島の大和心を人問わば、朝日に匂う山桜花」
が全てを語っている。
なんの主義にもとらわれる事無く、
此の時代を扱う事の難しさ。
此の脚本の素晴らしさに、
何人の観客が気付く事が出来るのだろうか?
此の作品の初演の時に、初めて佐藤氏の作品に触れた。
その時に受けた衝撃を思い出しつつも、
前回よりも作品の内容が、より胸に刺さった。
やはり昨年の東日本大震災の事が
大きく影響しているのは確かだ。
しかし、それを差引いても、脚本、演出、出演者が描き出す
此の作品の世界は僕を圧倒しくれている。
代表の佐藤氏は、役者としても相変わらずの存在感と、
観客を一気にその時代へ連れて行ってくれる
濃厚な世界観をまとう。演技力は群を抜く。
それにしても彼は一体、幾つなんだろう?
客演の土田卓さんの熱演も素晴らしい。
目力の強さ、言葉の強さは、隊員役の中でも群を抜く。
佐藤氏が濃厚な「静」の空気をまとうなら、
土田卓さんは熱い「動」の空気を発散する。
秋場千鶴子さんの醸し出す空気は一服の清涼剤のようで、
いつも思うが、小津映画の原節子ようだった。
小劇場において、この人の存在は希有だ。
また、女学生役の女優陣のほのぼのとした空気や、
女教師役の北原マヤさんのコミカルで確かな演技もまた、
重くなりがちな此の作品の世界を、
より鮮やかに、軽やかに彩っている。
連作となる「罅割れた盾」が楽しみである。