満足度★★★
重層的な表現
坂口安吾の代表作を、台詞のやりとりで展開する一般的な演劇のフォーマットではなく、複数のレイヤーが互いに干渉することなく展開する、実験的な形式で舞台化した作品でした。
真っ白な空間の中、小説の文章が表示される4つのモニター、現代の格好で朗読する女性、着物を纏って呻きながら動く女性、全身白い格好で道化的に戯れる男女といった異なるレイヤーがお互いにあまり関連しないで展開する構成ですが、テクストは少しカットされている以外は前衛的演出に良くあるような断片化や他のテクストの挿入などもなく原作通りに進むので、押し付けがましい難解さは感じませんでした。
ビデオカメラを用いて役者のアップを映したり、役者が劇場の外に出て行って劇場のすぐ横を走る電車を映したりするのが、小説の中の要素と結び付いていて、単なる思い付きではない説得力がありました。
原作の持つコミカルな雰囲気やエロティシズムが具現化されていて、ある意味では分かりやすい演出でした。
ちょっとレトロさを感じさせるおもちゃを用いて、朗読されている場面をユーモラスに再現するのをライブ映像で投影するのはスタイリッシュで面白かったのですが、それらのおもちゃと原作との繋がりが希薄に感じられたのが勿体なく思いました。
真っ白な空間に色彩豊かな着物やキャンドルが映えていて美しかったです。
この劇団は毎回異なる作風の作品を作っていて、いずれも楽しめるものになっていて興味深く、個人的には今回の実験的な作風は好みなのですが、前作(リアルな会話劇でした)に比べて惹き付ける強度に欠けていると思いました。