再/生 公演情報 東京デスロック「再/生」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    だんだんわかってくること
    白いスクリーンのほか、何のセットも無い空間。
    やがて1人の女性が客席の方から登場。
    彼女が“幸せ”について短く語ったあと、録音されたその声が繰り返し流れる。
    彼女に続いて5人の役者が登場、合計6人による「再/生」が繰り広げられる。
    まるで「再生ボタン」を押し続けるように正確なくり返し・・・。

    ネタバレBOX

    日常生活を表すような淡々とした無対象の動き。
    ハンドルを握ったり、テーブルを拭いたりするような動きが繰り返される。
    サザンオールスターズの「TUNAMI」やビートルズが流れ、
    曲が頭に戻って繰り返されると人々もまた同じ動きを始める。
    人々はすれ違い、交差し、営々といとなまれる日常が繰り返されていく。

    曲が変わって次第に動きが激しくなる中、人々は不意にバタン!と倒れる。
    それはまるで力尽きて二度と起き上がらないかのように見える。
    だがまた起き上がって続きを始める。
    憑かれたように腕を振り回し、五体投地のように倒れ込み、激しく足を踏み鳴らす。
    やがて音楽が止み、汗だくの人々は倒れ込んで激しく息を弾ませている。
    しばらくして 起き上がってまた客席の奥へと向かって歩き出して終わる・・・。

    この動きの合間に7月からのツアーの様子がリアルに語られる。
    横浜、京都、袋井、ソウル、福岡、北九州、青森と、
    それぞれの土地での印象や
    ひとつ終わった安堵感がにじむ劇団員のリラックスした会話が再現されて思わず笑ってしまう。

    説明するとこんな文章になるが、とにかく身体表現の雄弁さに圧倒される。
    激しさを増しても、動きは常に同じ腕の高さ、角度、勢いを保っている。
    「言葉」に頼らない表現は「言葉」の制限を持たない分自由に広がる。
    身体はその最強のツールであり、
    役者はそのツールを最大限に活かそうとする。
    アフタートークで多田さんが語ったところによると、あのくり返される動きは
    「アドリブで動いたあと、それを正確に再生している」とのこと。
    何度も同じ動きをくり返すうちに、だんだんと
    良い意味での慣れと安定感が生まれるのがわかる。

    曲が頭に戻ると一瞬うんざりした表情を浮かべつつ、
    手を抜かずにまた動き始める姿に
    前に進むしかない私たちの人生を垣間見る思いがする。
    そして時折静かに前へ歩み出て立ち止まり、
    はるか彼方へ視線を投げかけている。
    後悔か、不安か、疑問か、誰もみな幸せを求めているはずなのに
    その顔はあまり幸せそうに見えない。
    切羽つまったようなその表情をみていると、何だか涙がにじんで来た。

    くり返される日常の中に、時に大波小波が訪れ、
    私たちは翻弄され流されながら暮らしている。
    その素朴な幸せの手触りを確かめるのは皮肉にも
    望まない力によって日常が分断された時だ。
    何度も音を立てて倒れ込む人々の姿にその衝撃と絶望が重なる。
    今度は立ち上がれないだろうと思っていると、また立ち上がるのだ。
    それはまるでゾンビのようで、たくましさと同時にしかし痛々しさも感じさせる。
    私たちの暮らしはまさにこんな風に「再生」と「/(分断)」のくり返しだ。
    そしてこの日常が暴力的に損なわれることを
    私たちは今、ひどく怖れている。

    多田さんが
    「ツアー中、東と西とでは震災の受け止め方に違いを感じた」と言っていたが
    そうした地域性や風土をも、ライブで演劇の中に取り込む手法に
    ダイナミックさを感じる。

    私の好きな夏目慎也さんが今回もまた修行のように肉体を酷使していた。
    お疲れ様でした、夏目さん。
    「再/生」は、役者の痩せるようなストイックさで出来ている。

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    2012/03/31 01:03

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