少しはみ出て殴られた 公演情報 MONO「少しはみ出て殴られた」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    人の心にある微妙な心理/心のヒビにいったん気づいてしまったら…
    少しずつズレていく男たちの姿を、ユーモアを交えながら、寓話風に丁寧に描いていた。

    ネタバレBOX

    マナヒラという国にある、軽犯罪だけど(重犯等の理由で)更生不可能な人たちが収監されている刑務所での物語。
    刑務官は居眠りしていたり、犯罪者たちも特に緊張感はない。だらだらとした和気藹々さの日々。

    ある日マナヒラからヒガシマナヒラという国が独立をした。
    さらにマナヒラではコチという地方も独立しようとしていて、不穏な状況にある。
    刑務所は、マナヒラとヒガシマナヒラとの国境の上に建っていた。

    ヒガシマナヒラの独立により、行政機関が麻痺し、あまり重要ではない刑務所は取り残されてしまった。
    普段は作業をしている囚人たちは暇になり、最初は、刑務所のどこに国境があるのかを机で示し、出身で2つの国に分けて立ち、相手を「外国人」と言ったり、国境の机を越えることで「海外旅行」などと言い合い楽しんでいた。

    そんな中、新しい囚人が入って来る。
    最初は何も起こらなかったのだが、「国」を意識することから、徐々に彼らの行動がズレ初めてくる。

    そんなストーリー。

    「国」の「プライド(誇り)」と言う口当たりのいい言葉と、なんとなく気持ちのどこかにあった卑屈な心や優越感など微妙な心理が、意識しないところで滲み出し、吐いた言葉が自分たちを縛り、「国」の溝が深まっていく。

    刑務所の中だし、もともと仲の良かった彼らだったので、「国境」も最初は遊びの延長だったのだが、なんとなく「怖い」雰囲気のある刑務官の存在(リーダー的な)により、遊びが悪いほうへ、エスカレートしていく、つまり遊びではなくなっていくのだ。

    架空の国の設定ということもあり、「国」に関する寓話になっている。

    「国」なんていう「見えない壁」が、心の中に一度築かれてしまったときに、人はそれを簡単にぬぐい去ることができない、そんな寓話だ。

    国を巡る、ギスギスした感情が、後戻りできなくなり、最後には爆発してしまう。
    言わば、国境を巡る戦争が勃発する。

    その後、刑務所は平穏を取り戻すのだが、ナカゲガミの不在や、一度深まった溝のシコリが彼らの心の中に残っている。

    その「シコリ」こそが、とても重要なメッセージではないだろうか。
    人の感情は、数学のように割り切れるものではなく、絶対にその底流にいつまでもシコリは流れていく。この舞台では「国」というテーマであったのだが、それが何であれ、一度入ったヒビは塞がったようでもヒビのままであるようにだ。
    つまり、今まで気がつかなかった「心のヒビ」に気づいてしまったら、もうそのヒビからは目を離すことができなくなってしまう。そうした心理がラストに描かれていたのだろう。

    タヌキとミタムラのように、仲が良かった2人にも、ミタムラが足が悪いということからの負い目があり、国という意識の登場により、ミタムラの中でそれが噴出してしまうことでできてしまった溝がある。
    彼らのヒビはそうしたものだったのだが、やはりいったん気づいてしまい、白日の下に晒されてしまったら、後戻りできなくなってしまうのだ。戻ったようでもヒビは消えることがなく、彼らの心の中にも意識されていく。

    タヌキが考案したイメージの遊びは、実はミタムラのことを思ってのものだった、ということをミタムラは初めて知ったのだが、それでも溝はすぐに埋まらない。
    ただ、なんとなくもとに戻る、と言うよりは、ヒビがあったことを理解し、認め合った上で、新たないい関係が築けていくのではないだろうか、と思わせるラストは救いだ。

    さらに、シコリを残した「国」という概念だけでなく、人が集まると組織になり、組織があると、リーダーが出来ていくという過程が面白い。
    「声の大きな者」がリーダーのようになっていくし、それに付き従うことで、「マカロニスパゲッティ」を作ってしまうというところも示唆に富んでいる。

    あえて、そういう人を「マカロニスパゲッティ」というコチ地方の方言(ことわざ)にしたところが、うまいと思う。しかもそれを、例えば「独裁者」のように言い換えたりしないところも巧みだ。
    この塩梅が全編に貫かれており、誰にでもありそうな、人の弱さとおかしさと哀しさを描けているのだと思う。

    タヌキとミタムラを演じた、ヨーロッパ企画の面々(諏訪さん、中川さん)は、ヨーロッパ企画にもあるようなテイストと、普通の会話のうまさで、この舞台の中で、とてもいいドラマを育んでいたと思う。素晴らしいキャスティングだったと思う。
    ケンザブローを演じた岡嶋さんも、徐々にイヤな感じが滲み出てくるあたりがうまいと思った。
    作品ごとに別人のように見える水沼さんを含む、MONOのメンバーもあいかわらずいい味。土田英生さんも登場してたし。

    スコットランドの民族衣装のような、珍妙な看守の制服は変な感じだったけど。

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    2012/02/22 13:51

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