I 公演情報 劇団appleApple「I」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    半歩先で導びかれ半歩遅れて浸潤される
    半歩先で観る側を導きいれるような感覚と、
    半歩遅れて肌に沁み入ってくるような密度のなかで
    作品の世界にしっかりと閉じ込められてしまいました。

    ぞくっとくるような質感に魅入られてしまいました。

    ネタバレBOX

    可動式のパネルが小気味よくしたたかに動いて場をつくると
    そこに切れをもった役者たちの演技が
    世界を紡ぎ出していく。
    現実感と、どこか現実離れした肌触りが
    それぞれに観る側を舞台の世界に導いていきます。

    切れがあって、クリアで
    にも関わらずどこか不安定であいまいで
    視野狭窄的なテイストを持った
    物語の展開。
    観ていて、知らず知らずのうちに、
    前のめりになって舞台に引き込まれている。
    前半の個々のシーンは、
    刹那に作りこまれるニュアンスの明確さと裏腹に
    したたかな薄っぺらさがあって、
    半歩先にある物語の実態を
    追いかけるような感覚が生まれて、
    ついつい身を委ねてしまうのです。

    そして、その地域の彼女の部屋に至る中盤以降、
    感覚は逆転し、
    今度は半歩遅れて沁み入ってくる
    その場の密度に捉われてしまう。
    舞台上の過去と現在のボーダーが消えて、
    キャラクターの記憶があいまいに、
    でも、巻き込み沈めるような質量をもって
    今に重なりあう。

    二人の役者から次第に溢れてくるもの、
    そして別の視座を感じさせるような影の存在・・・。
    その世界から具象されるものの存在があって
    一方でそれらが具体的に物語られることはあまりなく、
    だからこそ半歩遅れるようにしてやってくる
    感覚の密度が、
    実態に吸い取られることなく
    その場の空気の色合いの微細さで
    観る側を塗りこめていく。

    そして、冒頭の世界に戻されて・・・
    解き放たれて、
    でも半歩前と半歩後ろの世界の感覚は
    消えることなく、観る側に遺されて。

    観終わった刹那には、
    自分自身の中にある記憶と、
    それらに対する意識のようなものまでがどこか揺らぎ、
    さらには、時間と記憶の強さの
    マトリックスの座標軸が撓んだような感じすらして。
    やがて会場が終演後のざわめきに包まれるなかで
    すっと常なる感覚に戻っていったのですが、
    観る側にとって無意識の領域にまで浸潤するような
    作品の力にゆっくりと深く驚嘆しました。


    役者たちそれぞれにも
    安定感と作りこまれた色合いがあって、
    作り手の描く世界を観る側に流し込む力になっていて。
    ぼぉーとアンケートを書く中で、
    目の前の、殺風景な、
    ルデコの空間にこれほどの世界を広げた
    作品の奥行きに愕然とする。

    誰もが好きになるというような作品というではないかも
    しれません。
    人によって肌に合うとか合わないというようなことが
    かなり出る作品かもしれないとは思う。
    でも、少なくとも私的には、
    この作り手や演じ手の表現に
    常ならぬほどに嵌ってしまいました。

    初日ということで
    上演を重ねるなかで、まだ、
    その深淵には先が生まれる予感もありつつ
    帰り道、余震のようにやってくる、
    作品の感覚と自らの内にある時間が醸成する揺らぎのようなものに
    作品の力をさらに実感じたことでした。












    一方で密度の肌触りは半歩遅れてやってくる。

    0

    2012/01/15 09:30

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大