『タンバリン・スナイパー』 公演情報 8割世界【19日20日、愛媛公演!!】「『タンバリン・スナイパー』 」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    あり得ない設定と笑いの中に、強いテーマと、さらに結構鋭い針がチクリ
    保育士とライフル、そんな噛み合わない2つが、ある事情で一緒になっていく。
    石原美か子さんの脚本を8割世界が繰り広げる。

    会場に入ると、変な感じのステージの形が、期待を高めてくれる。

    ネタバレBOX

    熊が町に降りてきて、うろついているという不安がある中、保育士たちは、不審者の威嚇のために、特別な許可を国からもらい、ライフルで武装するということになっている。
    彼らは、猟友会から講師を招き、ライフル射撃のセミナーを受ける。

    何をやってもうまくできない、あやめは、なぜか射撃の腕だけはいい。しかし、彼女の夫・惣介は、買ってきたアサリを飼おうとするほど、優しい男であり、あやめはセミナーのことを告げることができない。

    そんなストーリー。

    フライヤーのイラストから、もっとヘヴィな状況下の保育士たちを想像していたのだが、そうではなかった。

    保育士がライフル射撃のセミナーを受講しなくてはならない、というあり得ない設定なのに、その上に構築された物語は、現実の世界と変わりなく、人間同士どのように接していくか、ということがテーマとなっていた(さらにもう一歩踏み込むと、日本人特有の性質もチクリと…というテーマもあったのではないか)。

    つまり、ライフルの実弾による、不審者への威嚇という、とんでも設定、極端なことを見せて、人に対して効果があるのは、「力」か「言葉」かということになろう。

    それを、一方が「ライフル」というあり得ない設定で、もう一方は、「度を過ぎた優しい男」という、これまた、両極端にすることで、ありがちな「やっぱり言葉だよね」と直結させないところがうまいと言える。

    度過ぎて優しい男(あやめの夫・惣介)の存在により、2軸の対立があまり露わにならず、根底のテーマがじんわりと効いてくる。
    徐々に、惣介の存在がクローズアップされていくのだ。

    笑いの中にこうしたテーマを溶け込ませるうまさがあったと言える。
    しかも、保育士たちの、ほんわかムードが、その殺伐とした設定を覆うのだ。
    この相反する事象の対立がを、対立軸と見せないところが、またうまいのだ。

    ただ、ジャンプ率というか、ストーリーからうんとはみ出るところがにないのが、唯一の欠点ではないかと思う。
    ただ、このストーリーだったから(設定だったから)こそ、ほかは地に足を着けたぐらいが丁度よかったのかもしれないのだが。

    この作品をもう一歩踏み込むと、町を俳諧する「熊」という「現実の不安」、いつかやって来るかもしれない「不審者」への「不安」、そして、それに対応するための、あまりいいとは思えない「国の施策」(ライフルで威嚇)、それに「しょうがない」「必要だ」「何も考えない」と、さまざまな意見・感覚を持って、従うだけの人々。そんな構図は、あらためて述べるまでもなく、いつも存在している。

    「お国が決めたことだから」と、保育士が人の生命を危険に晒すことを業務として行うという状況は、「子どもの安全を守るため」という大義名分に強く押されて出てきている。

    疑問を持ちながらも、「仕事だから」と従ってしまう保育士たちの姿は、笑って観ている観客たちにも降りかかって来る、いや、降りかかっているのかもしれない。それは実に「日本人的」な反応ではないだろうか。

    「大義名分」というのは、いつも怖い存在であり、注意をしなくてはならないものだ。

    不安を解消するための突破口として、「お上」が決めてくれたことだから、と従うのはたやすい。言い訳としても立派だ。

    そういう「怖さ」もこの作品は秘めているのではないだろうか。

    その「怖さ」に対しては、「過剰のほどの優しさ」で対抗するしかないのかもしれない。現実を生きる者としての、抵抗であり、知恵でもあるということだ。

    作品のストーリーは一応の終息を迎えるのだが、そうした根本的な問題は、舞台上では解決していかない。それは、続いている状況であり、私たちへの「宿題」であるのかもしれない。

    場面展開のお遊戯が意外と(笑)いい。動きにキレがあり、保育士の世界をうまく醸し出しながら、楽しくシーンをつなげていく。

    それにしても、キャラの、それぞれの立て方が素晴らしい。
    特に、あやめを演じた奥山智恵野さんのキュートさは凄い。これからも8割世界のキュート・パート(笑)を支えていくだろう。ただし、ワンパターンにならないように願いたい(…偉そうな意見だけど・笑)。
    みなこ先生を演じた日高ゆいさんの、芯が強そうな感じもいいし、あやめの姉を演じた松木美路子さんの落ち着きある雰囲気もなかなか。
    すみよし先生を演じた高宮尚貴さんと、理事長を演じた吉岡和浩さんは、ともに空気が読めないのだが、その違いがはっきりしていて、それぞれのキャラの出し方の違いがよかった(演出のうまさもあるのだろうが)。高宮さんはこういう変な感じはうまいのだ。
    主任を演じた鈴木啓司さんは丁寧で好感が持てるし、れいこ先生を演じた廣嶋梨乃さんの、途中から見えるおばちゃん感も捨てがたい。

    作・石原美か子さんと演出・鈴木雄太さんのコンビなかなかいい。
    しっかりとした物語を、演出で丁寧に物語を進めつつ、大胆に見せていく個所も盛り込んでいくことで、作品に良い起伏、波をうまく作り出せていたと思うのだ。

    ちなみに、DPの『ハッシュ』は、ここのテーマ曲なんだろうか?

    一緒に行った連れも、楽しいと言っていたので、前作は観てない連れのために、1500円という安い値段の『そこで、ガムほ噛めィ!』のDVDを購入した。

    ああ、それと「こばや紙」は、A4サイズになっていて、持ち帰りやすくなった(笑)。

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    2011/12/15 08:06

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