乞局(こつぼね) 公演情報 乞局「乞局(こつぼね)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    圧倒的に、人間。
    喜怒哀楽が誤作動してしまう一筋縄ではいかないニンゲンらしさが、ちょっと鬱陶しいくらいの温度で描かれていて、とてもよかった。

    それから音響、照明、舞台美術が細部に至るまでとても丁寧に設計されていて感動。
    小劇場であの空間設計は最高レベルを誇るのではないでしょうか。
    
どこぞの地方の生活臭&土着臭が染み付いて逃れられない感じの役者さんたちの振る舞いが凄まじい。
    
安っぽい許しと人間愛に食傷気味なひとにとくにおすすめ。

    ネタバレBOX

    そこがどこであるものか、明確な特定はなされない。ただ、主要ターミナル駅から少し離れた、タクシーは呼ばないと来なくて、バスも通ってない、ちょっと辺鄙などこかの街。そんなうらぶれた街の商店街の一角に、ぽつねんと佇む風の場末感が漂う喫茶店。そこは病に冒された妻•葉万子と義兄•土手光を持つ千和という男が切り盛りしているが、店とふたりの世話で手一杯の千和は弟の颯太朗に葉万子との子供を養子に出しており、毎月養育費を支払う約束をしているが、支払いきれず、サラ金業者から金を借りている始末。金銭を要求する弟と、返済を要求するサラ金業者。治療する金もない、そんな内部事情を知る街人と、それをききつけ、群がる街人たちの群像劇。

    と書くと一見、特殊なようにおもえなくもないが、刺激的な都心部をひとたび離れれば、退屈がやってくるのは時間の問題で、それは場合によっては安息に似ているかもしれないけれども、そういう土地には場所柄、”他人の不幸は蜜の味”とはいかないまでも『なにかおもしろいことはないだろうか』とかぎ回っている人間というのは少なからずいるもので、この一角では”たまたま”千知の家庭事情が今、激アツなトピックになっているというだけなので、それはなにもこの街に限ったことではないだろう。
    そして、それは、まったく目をみはるものがある。
    たとえば『様子を見に来た』と理由をつけて入り浸る薬局店員の触田が『千和はお金のことで相当困っているらしい』というネタを仕入れればその情報はスナックママ、お店のホステスの女の子、蟲屋の店員、andthem,,,へと光の速さで伝達がなされ、見えないところで会合(井戸端会議)が開かれ『今日聞いたことを明日になったら忘れてしまう、カワイソウな葉万子さん』に街人たちが同情した結果、『相談にのってもらってありがとう』との名目で、”カワイそうな葉万子さんをスクウ会”とでもいうような、慈善でもあり、偽善でもある募金めいた、あるいはお布施めいた行為を街人たちが、随分前からはじめたのではないだろうか、と推測される。

    しかし、この街の人たちは『おせっかい』である割に良い事をすることに『引け目』を感じる弱き人々なので、こんな方法でしか気持ちをつたえることができない。
    わたしはそこに、とても人間らしい一面を垣間みたような気がした。
    これはとても誤った観方かもしれないが、人情や優しさというものがある種のうっとうしさによる善意であり、悪気はないのだろうけど受け取るほうとしてはありがた迷惑ともいえない善意とも悪意ともつかない曖昧な行為によるもの、であるとするならば、これは、下町の寅さんと同様の心理が働いているではないかとすらおもったほどだ。そしてその感覚は『良心の呵責に苛まれる』という倫理観によるものに近しい。

    その光景を異常におもい、疑問を感じた葉万子がある時、憂さ晴らしのための手段として『利用』されているだけだった。と知ってしまったとしても、彼女の行為は曲がりなりにも千和を借金から『救って』いるし、彼女に話をきいてもらった人々の心もまた『救われて』いる。
    『ありがたい』という意味で、葉万子は神のような存在だともいえる。彼女がただ頷くだけで、勝手にお金が溢れ出し、人は頭を深くさげる。
    そんな彼女を千知がどこにも行かせたくないというのも無理はない。なぜなら彼女は、金銭を生む機械であり、救い主でもあり、また、憤怒と欲望の捌け口のペットであるからだ。そして、万葉子は千知の暴力行為を忘れてしまう。あるいは、ほんとうは忘れたフリをしているだけかもしれない。

    だから、私は千和たちは、発狂し、気が狂いそうになりながらも、その一歩先は『良心の呵責に苛まれた懺悔』によって踏みとどまろうとして、同じ日を何年も、何十年も繰り返し、生きることを選択してしまうだろう、とおもった。
    それこそが償いであり、無償の愛とかいうやつなんじゃないか、と。
    もしくは、そうなるように祈りたいだけ、だったのかもしれないのだけど。
    こんなにも、圧倒的に『人間』をみたのは久々だった。

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    2011/12/12 05:01

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