満足度★★★★
多彩な声
8月に行われた『吾妻橋ダンスクロッシング』にて発表された『his master's voice』が倍近い時間に拡大され、空間を活かした作品にバージョンアップしていました。日本の近代化~戦争~戦後に関連するテキストが響き合い、心地よい緊張感がありました。
昭和の時代感が溢れるホールの18列ある客席の12列目以降だけが解放されていて、それより前の席はアクティングエリアとして使用されていました。開演時刻の少し前から役者がばらばらに入ってきて、離れた位置に座り、大日本国憲法が独特の抑揚とリズムで読みあげられて始まり、『家路』(朝吹真理子)、『象』(別役実)、犬養毅の演説、日本国憲法などのテキストが用いられていました。
基本的な構成は『his~』とほぼ同じで、各パートが拡張された形になっていました。誰もいないステージに向かって拍手とブラボーが送られ、そのまま観客の拍手に繋げるラストシーンが大きな変更でした。
客席の陰に小道具のスイカやアコーディオンを隠していたり、役者自身も横になって身を隠して誰の姿もない中、ステージだけが妙に明るいホール内に声が響き渡るというシュールな光景が展開されたりと、会場の特徴が巧みに取り込まれていました。『君が代』をアコーディオンで演奏するシーンや犬養毅の演説はこの会場の雰囲気にまさにうってつけだったと思います。開演時刻を告げる昔ながらのけたたましいブザーや、館内放送のスピーカーから流れる注意の一節なども作品に取り込まれていて、近現代の日本というテーマにマッチしていました。
尺が長くなった分、少々密度も薄くなってしまった感もありましたが、『his~』ではあまり感じられなかったユーモラスな要素が時折浮かび上がってきていて楽しかったです。