エレジー 公演情報 (公財)可児市文化芸術振興財団「エレジー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    「老い」ることで、向き合わなければなければならないことが、ずっしりとのしかかってくる
    「喪失」「後悔」…。
    そして、辛すぎる物語。
    平幹二朗さんの圧倒的な存在感が、素晴らしい舞台。

    ネタバレBOX

    なんて酷い話だろうと思う。
    年老いた者から、大切な息子を2人も奪うなんて。
    1人は本当の息子、そして、もう1人は息子と一緒に暮らしていた女性で、、主人公・平吉が、「理想の息子は、おまえ(塩子)にヒゲを生やしたような男だ」と言った塩子だ。

    対する塩子は、「女として見てほしい」と平吉への想いを募らせるが、平吉には塩子に息子が見えているので、実るはずもない。

    平吉は、塩子を通して、息子を見ていて、塩子は、平吉に自分が愛した男の面影を見ているのだ。

    よって、平吉は息子を2人亡くし、塩子は愛する人を2度失うことになる。

    絶対に、正確には交わらない2人の想いが、失ってしまった息子・夫という微妙なベクトルの違う像によって交わっていく。

    それは、平吉の住む「家」によって、偽りの糸がつながる。
    失ってしまったということを認めたくない2人が交わす、家のローンの約束が哀しい。
    それが、逃避であったとしても、ほかに逃げ場もないのだからしょうがない。

    平幹二朗さん演じる主人公が、大切にしている「凧」が象徴的。
    「糸の切れた凧は…」と言う、平吉と塩子。
    まさに大切な人を失ってしまった2人は、「糸の切れて」しまった状態であり、どこに行くのかわからない。
    不安定な精神状態にある。

    平吉は、息子の行状を知ることで、さらにもう一度息子を失うことにもなってしまう。

    だから、平吉にはありもしない踏切が見え、塩子はせっかく脱したアルコールに手を出してしまう。

    長く生きていくということは、喪失と向き合うことである。という当たり前のこと、しかし、誰もが見たくない現実と向き合わされてしまう作品だと思う。

    それは、手にしていた「凧の糸」が、ぷつりと切れてしまうことだ。今まで手に感じていた感触が、すっと、なくなっていく。
    家族、友人、知人という、多くの糸から感じていた感触が、1本、また1本と消えていくのだ。

    そして、平吉のように、「ああすればよかった」「こうすればよかった」の後悔の繰り返しが、歳を取るということだということなのかもしれない。言っておかなければならなかったことだけが、心に残り、それが溜まることで、身も心も残骸になっていく様のようで、平吉にだけ聞こえる踏切の音がとても辛いのだ。
    残ってしまった者の上に、「後悔」の2文字が降り積もる。その重みに耐えていくことが歳を取るということ、というのはあまりにも辛すぎるのではないだろうか。

    だから、古い戯曲のせいなのか、ラストに塩子を死なせなくてもよかったのではないか、と、つい思ってしまった。
    それだけ感情が入って観ていたということなのだろうが、老いることの救いもほしかったと思うのが本音でもある。

    平幹二朗さんを観るだけで満足度の高い舞台だった。なんという存在感。しかも手が届くような場所で演じている。
    そして、塩子を演じた山本郁子さんとガップリ組んだところが、実に素晴らしい。これは本当に見応えがあった。
    また、塩子の叔母役の角替和枝さんは、あいかわらず、細かいところで、自分を出してくるところが凄い。ほんとに細かいちょっとした「自分」(笑)を必ず入れてくる。
    さらに、平吉の弟を演じた坂部文昭さんとの対比が楽しい。この重い物語にいいアクセントとなっていくのだ。

    ただし、残念なのが、セットだ。
    この舞台、やけに暗転とセットの展開が多い。
    しかし、単に横にするだけだったり、机や椅子の出し入れだったりするのだが、これは本当に必要があったのだろうか。
    第一音がうるさすぎる。
    屋外のシーンは、単にセットのほうを暗くして、セットの前で演じれば済んだのではないだろうか。
    もちろん、ラストシーンだけは、セットを完全に外すほうが(ここだけ暗転も長くして)効果的だったと思う。
    また、庭に見える木を模したような、背景のセットは、赤などのライトを当て、凧糸や絆を象徴的に表現していたのだろうが、もうひとつ見えにくかったのも、ちよっと残念。

    後援が、可児市ということで、客席の上には丁寧にラッピングされた深紅のバラが1輪ずつ置いてあった。
    失ってしまった者たちと、これから彼らへの「後悔」を胸に生きていく平吉へ、捧げる花のように感じ、可児市の特産品以上の意味を感じてしまった。
    バラを手に、舞台の気持ちを胸に帰宅した。

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    2011/10/19 06:48

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