満足度★★★
雨と闇の中のドラマ
ある路地を舞台に、人々の終末感や焦燥感をインパクトのある空間表現で描いた作品でした。
結婚式当日に花嫁を奪われた男、奪った男、その花嫁、の幼馴染み3人を中心にして、その家族たちを巻き込んだ物語をベースに、土砂降りの雨の中を行進する鼓笛隊(そう呼ばれていましたが、実際は管楽器はなくてドラムのみ)、壊れたトランシーバーに向かって報告を続ける少年、妻に先立たれた先生、蟹になった女など謎めいたキャラクターが絡み、アングラ的雰囲気が濃厚でした。
それぞれのシーンで起こっていることは理解でき、また魅力的だったですが、全体を通じて何が言いたかったのかが良く分かりませんでした。
ロルカの『血の婚礼』を読んだことも観たこともない状態で観たので、知っていればもっと深く理解できて楽しめたのかもしれません。
半分以上の時間降り続ける雨や、闇の中の蝋燭の光などの空間的なビジュアル表現は迫力があって素晴らしかったのですが、音楽や映像が説明的過ぎるように感じました。音楽に頼らずに台詞だけでも(むしろ台詞だけの方が)充分に引き込まれる内容だったのに、シーンにマッチし過ぎている音楽がイメージの広がりを妨げているように感じました。もっとざっくりした感じがあれば良いのにと思いました。
上手がレンタルビデオ屋、下手がコインランドリー、その間と舞台手前側が自動販売機が立ち並ぶ路地で、上部には色々な店のネオンサインに鯉のぼりという猥雑感あふれるセットが良かったです。
雨でびしょ濡れになり、声も雨音で聞こえにくい中で、役者たちは熱演でした。一番印象に残ったのは、トランシーバーを持つ男を演じた田島優成さんで、雨の中を転げ回りながら叫ぶ体を張った演技に、必死に世界と繋がろうとしているのに相手にされない疎外感が強く表現されていました。
窪塚洋介さんは発声や台詞回しは上手いとは言えないのですが、舞台にいるだけでも独特な存在感を放っていて魅力的でした。伊藤蘭さんや中嶋朋子さんも内面に陰を持った雰囲気が出ていましたが、時々いかにもお芝居なオーバーな演技があって、残念でした。