さらばユビキタス 公演情報 エビビモpro.「さらばユビキタス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    楽しさの中に込められた最後のメッセージ
    全員が一体となって、歌い踊る姿が楽しいエビビモpro.。
    最初の、そんなシーンでつい笑みがこぼれてしまった。
    中盤は少々中だるみ(歌が少ないんだよね)があったものの、「え?」という展開とともに、楽しんだ。
    それは、やっぱ、エビビモpro.好きだからなんだよね。

    ネタバレBOX

    「神」に選ばれた12人が、まるでノアの箱船のような箱船に集められ、これから起こる世界の破滅に、「何か」をして世界を救う。「何が起きるのか」そして「世界を救うためには何をやればいいのか」というテーマで物語は進むように見えた。
    つまりのところ、今現在のこの状況を取り込んだ物語になるんだろうと誰もが思ったに違いない。
    もちろん私もそう思った。

    しかし、様相は終盤で変わってくる。「え? 何?」と思う間もなく「え? え?」という展開に。

    多くの動物も乗っていることから、「箱船」とは「種の保存」であり、つがいの性は「生殖」が目的であろうが、実は12人のほとんど(全員じゃなくてほとんど)が同性愛者だったという展開になるのだ。
    これは、「性」を「生殖」にしかとらえられないことへの、アンチテーゼではないだろうか。
    「何も考えずに楽しんで」と当パンには書いてあるが、そこには、実は思い入れがあったに違いない。

    「え? 何?」とびっくりしつつも、ストーリーにも出てきた「種の保存」を根底から覆す展開には、単なる思いつき以上の何かがあるのでは、と勘ぐった。
    つまり、単なる思いつきであれば、もっとおちゃらけた雰囲気になるのだが、そうはなっていなかった。
    幸せな雰囲気で終わるし、何よりも「神」たちがそこに介在しているからだ。

    エビビモpro.では、前に観た『鬱病のサムシンググレート』でも、「神」が絶対的な存在として出てきていた。
    今回も神たちが出てきて、登場人物たちを翻弄する。もっと具体的に言えば、背中を押したり、操ったりするのだ。

    たぶん、そこには、作者にとって抗えない「運命」のようなものを強くいつも感じているのではないだろうか。
    与えられ、用意された運命の中で、人はできることをやっていかなくてはならないということを。
    この舞台の登場人物たちも、神たちの導きで、本当の自分を手に入れることができる。なんだか不器用な人たちばかりだったしね。

    ちなみに、タイトルにある「ユビキタス」は、もともと宗教用語で「神はあまねく存在する」という意味らしい。
    ということは、「運命」にさらばを告げたいという意思でもあったのだろう。

    結果、世界は破滅しないことになる。それを下すのが、一番上にいる神、ジーザスクライスト・アマデウステラスであり、それを演じるのが作・演の矢ヶ部哲さんなのだ(あの舞台での位置はいい。みんなを見下ろす感じが)。
    つまり、自らが神であり、人の運命を左右する。「運命」を演じる。

    で、今回のテーマ(メッセージ)となったことは、当パンの矢ヶ部さんの、ちょっとした告白から「なるほど」と思った。「運命」とか「性」とか、そんなことだ。
    そして、本作で、退団することになる矢ヶ部さんが、面白おかしい舞台の上で言いたかった(最後、そして切実な)メッセージ(願望)だったのかもしれない。

    さらに言えば、世界を救うために登場人物たちが行うのは「ミュージカル」。これも、作の矢ヶ部さんのことと考え合わせるとなんとも言えないものがある。
    矢ヶ部さんに限らず、劇団員自体が「ミュージカル」に救われているかもしれないからだ。

    矢ヶ部さんにとっての最後の公演は、劇団にとっての1つの精算と確認だったのかもしれない。

    エビビモpro.は、ミュージカル劇団ということで、歌とダンスが楽しい。全員が歌い踊るシーンが一番楽しいのだが、中盤にそういうシーンが少なく、やや中だるみしてしまった。
    もっと、歌のシーンが多いと楽しいのにと思う。

    そして、今まで軸であった矢ヶ部哲さん退団ということで、エビビモpro.はこれからどうなるのだろうと思う。
    次回その答えが観られるのだと思うと、新しいエビビモpro.に期待せざるを得ないのだ。

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    2011/06/10 08:05

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