実演鑑賞
満足度★★★★★
静かな演劇というものを味わいたくて、戯曲『海と日傘』を読んでから観劇。文章で読んだ時には伝わってこなかった行間に仕組まれたあれやこれやが、舞台上でまざまざと浮かび上がる様子に、舞台の為に書かれた戯曲という物の力を見せつけられた思い。舞台美術を究極のシンプルに振り切った演出の桐山和也さんの覚悟に感服いたしました。著者の松田正隆氏の長崎への思いは切り離せず、美しく光りながら揺れるカーテンは生と死の間なのか、それとも海の底なのか…
ネタバレBOX
しかしこの舞台、妻の直子の余命僅か…の部分を除けば、ごく日常の、どこにでもある夫婦や隣近所、職場の人間関係の会話劇で成り立っています。
被爆の影響で死にゆく妻を看取る夫の悲劇、と単純に受け取るには惜しい。
ごくその辺にある人と人の言葉のやりとりの中の行き違いや隠された本音の、『あるある』な会話を観客はそれぞれの実体験と照らして楽しむのが面白いし、この舞台はそれを観客に求めていると思う。
煮え切らないのに何故かモテる主人公の洋次を大野拓朗さんが好演。妻に愛されてそこに甘えているダメ夫だけど何故か憎めないキャラ。いろんな人に詰め寄られて(詰め寄られた気持ちになって)目を泳がせてフワフワしながらも、妻を想う気持ちは演技の強さ重さで伝わって来ました。
余命3ヶ月の妻を南沢奈央さんが、黄色い花柄の衣装で最期まで元気そうに、健気に夫に愛を傾けて命を全うする姿には、涙が溢れました。清純で高潔…そこに昭和っぽさもあってぴったりの配役だと思いました。
瀬戸山夫婦役の斉藤淳さんと阿南敦子さんはテンポ良く座組を引っ張っておられたし、編集者の吉岡役の小川ゲンさんは、台詞の間が上手くて何故か心に刺さる。オーディションで役を勝ちとったと言う多田役の松田佳央理さん、柳本役の小川幸人さんも好演されてました。プロデューサーの佐藤玲さんも看護師をさらりと演じておられて、目線動きと声の通りは流石だと思いました。
複数回観ると、また違った発見があって、本当に奥深く面白い舞台でした。
楽しめました…観て良かったです!!